園都 2018年6月28日号

森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 裁量労働制はどこが問題か

掲載日時 2018年03月06日 10時00分 [政治] / 掲載号 2018年3月15日号

 2月14日の国会で、安倍総理が答弁の撤回と謝罪に追い込まれた。撤回したのは、「裁量労働制で働く人の労働時間が一般の労働者より短い」とした答弁についてだ。
 安倍総理が根拠とした調査は、厚生労働省の労働基準監督官が聞き取り調査をしたものだったが、「平均的な労働者」に分類した9449人のうち、9人が1日23時間以上労働していた。その調査が、「最長の労働時間」を聞いていたからだ。
 これは、ねつ造と言われても仕方がない。厚生労働省が、なぜそんなことをしたのか。それは、裁量労働制が導入されれば、サラリーマンの帰宅時間が早くなるというバラ色の未来を描くことで、どうしても裁量労働制の適用対象を拡大したかったからだろう。

 裁量労働制というのは、出退勤の時間を働く人が自由に選べる制度だ。フレックスタイム制と似ているが、フレックスタイム制の場合は、出退勤の時間は選べても、労働時間は完全に管理される。一方、裁量労働制の場合は、みなし労働時間制で、何時間働いても、一定の労働時間とみなされる。もちろん、深夜残業や休日労働については別途残業代が支払われるが、普通の残業に残業代が支払われることがない。
 このため、現行法では裁量労働制の適用対象をデザイナー、研究者、公認会計士、弁護士などの専門型職業と、情報システムコンサルタントや新聞記者、番組プロデューサーなどの「企画型」に限っている。今回の法改正では、企画型の分野で、一定の専門知識を持った「法人向け提案営業職」においても、裁量労働制の対象を拡大することにしている。
 営業職が裁量労働制になったら、何が起きるのだろうか。「ノルマが達成できるまで働け」と会社が言うに決まっている。これまでは、従業員が長時間働くと会社が残業代を支払わなければならないという歯止めがあった。しかし、裁量労働制では、残業代を原則支払わないのだから、長時間労働の歯止めがなくなってしまうのだ。

 ただ、私は裁量労働制そのものに反対ではない。実際、三和総研で研究員をしていたとき、労働基準監督署の許可を得て、業界で初めて研究員への裁量労働制導入を認めてもらった。私自身は、その裁量労働制は非常にうまく機能したと思う。ただし、裁量労働制がうまく行くためには、2つの条件が不可欠だ。
 1つは、絶対評価の給与制度を導入することだ。仕事の企画・営業を個人に任せると、暇な人と忙しい人に二極化する。忙しい人は、仕事を抑制しにくい。断ったら、後の受注がなくなるからだ。その時、固定給だったら、勤労意欲を失ってしまう。裁量労働制は生死の境まで働く可能性のある仕組みだから、せめてお金で報われなかったら、やってられないのだ。
 もう一つの条件は、ノルマを課してはいけないということだ。
 ノルマを課して裁量労働制を導入すると、残業代なしの長時間労働を招く。賃金を成果主義にすれば、仕事が取れないときのペナルティーは、年収減という形で突き付けられる。わざわざノルマを課す必要はないのだ。国会は、こうした裁量労働制の本質をまず議論すべきだろう。

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