菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(202)

掲載日時 2018年05月14日 12時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年5月10・17日合併号

◎快楽の1冊
『なぜ中国は民主化したくてもできないのか? 「皇帝政治」の本質を知れば現代中国の核心がわかる』 石平 KADOKAWA 1400円(本体価格)

 先頃4度目の当選を決めたロシアのプーチン大統領を独裁者呼ばわりするのはお約束だが、それでも中国の習近平国家主席に比べればややましというものだろう。なにしろ習氏は全人代(日本でいう国会、では断固としてない)が認めてその地位が終身、になったのだから。つまり死ぬまで。
 ロシアと中国の最大の違い、それは旧ソ連時代、既に大祖国戦争(第二次世界大戦のソ連側の呼称)による死者を上回る数の犠牲者を大粛清の恐怖政治で国内にもたらしたスターリンを、後継のフルシチョフが明確に批判することがまがりなりにも可能だったことだ。
 同様にエリツィンもスターリニズムを悪と断罪し否定したが、その点、中国はいまだに大量殺戮者としての毛沢東を建国の父ゆえに批判すらできない。たとえ大躍進政策の失敗や、酸鼻を極めた文化大革命を忘れたふりができたとしても。
 紀元前の昔、秦の始皇帝が創始した皇帝統治の制度は1911年の辛亥革命によって廃絶されたかにみえるが、著者によれば中国人の精神に根強く、ほとんど無意識に皇帝支配を待望する底流があるという。
 絶対的な中央集権体制がいったん崩壊するや、それに伴う内乱、収奪、虐殺は目を覆うばかりに歴代王朝で繰り返されてきた。非道暴戻な皇帝の末路は宿命的にそうなるが、逆に考えれば唐の太宗=李世民や、清の康熙・乾隆両帝のごとき「聖君」が行う「仁政」が長く続いてくれるなら、それこそ未来永劫でも構わない。いわば慈父を渇仰するような心理状態だとか。
 毛沢東のカリスマ性に欠け、鄧小平の経済的成功に並ぶような実績がないまま現在に至る習近平氏。新皇帝の立場に説得力を持たせるための何か、手が打たれようとしている。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 世界中の人々の記憶に刻まれた猟奇殺人事件の顛末と、犯人の実像を綴ったノンフィクション『歴史に名を残す「極悪人」99の事件簿』(二見書房/620円+税)。
 グロテスクな内容だが、人はひとつ間違うとここまで悪逆・残酷になれるという、その謎を探ることができる1冊としてオススメしたい。
 登場する事件は、少女600人の血を採取して全身エステに使っていた伯爵夫人、幼女から老女まで年齢関係なく女性の死体をコレクションした男、夫の浮気相手の手足を切断してトイレに遺棄した女性…など、目を覆わんばかりの非道行為の数々だ。
 前出の伯爵夫人は16〜17世紀のハンガリーの貴族。“血の伯爵夫人”と呼ばれ、吸血鬼のモデルとなったことでも知られている。少女の性器をえぐり出して興奮するという変態性癖も持ち合わせていたらしく、まさに悪魔といっていい。
 夫の愛人を殺した女性は中国に実在した人。この類の事件は中国にはまだあり、2013年には浮気した夫のペニスを切断しトイレに流した妻が、日本でも報道されていた。
 倒錯した性的志向を満たすため、恨みを晴らすため、殺人そのものが趣味…など犯人像もさまざまだが、共通しているのは人を殺す魅力に取りつかれた者が、次第に殺人に何のためらいもなくなっていく姿。いわばその者にとって、異常こそが正常な状態なのである。
 人の心に潜む異常な「魔」が膨大に掲載され、平凡だが正常であることが大切と、改めて思わされる。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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