林ゆめ 2018年12月6日号

森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 財務省のホンネはどこに

掲載日時 2015年09月22日 14時00分 [政治] / 掲載号 2015年10月1日号

 再来年4月からの消費税10%への引き上げの際に、与党が公約していた生活必需品への軽減税率導入に代わって、マイナンバーを活用した給付金制度を導入する案を、財務省が突然発表した。消費者が買い物をするたびに事業者が準備する端末にマイナンバーカードをかざして、カードに搭載されたICチップに情報を蓄積する。そして、その情報を市町村の窓口に提示することで、飲食料品の増税分2%を還付するという仕掛けだ。
 飲食料品の税率を低くするより後から払い戻した方が、財務省にとっては利益が大きい。マイナンバーカードを利用しなかったり、還付の申請に来ない納税者がいるからだ。さらに、財務省の案では、還付の金額に数千円の上限を設ける予定で、財政負担はさらに小さくなる。

 しかし、新聞各紙が揃って批判したように、この仕組みは、実現不可能と言っても過言ではないほど問題が多い。
 まず、消費税引き上げまでにマイナンバーカードが国民に届くかどうかだ。マイナンバーカードは申請方式で、国民の申請に基づいて送付される。しかも本人限定送付だから、在宅しないと持ち帰られてしまう。また、この還付金方式を採ると、国民は常にマイナンバーカードを持ち歩かなければならない。そうなれば、カードの紛失やナンバーの流出事故が桁違いに多くなることは間違いない。
 一方、飲食料品を取り扱う事業者は、すべて端末を設置することが必要になる。零細事業者がそれに対応できるかが不透明だ。また、還付を担当する市町村には、とてつもない事務負担がかかるし、還付のために市役所などに出かける国民の負担も非常に重い。
 さらに、還付制度は自民党が公明党と与党協議の中で約束し、昨年末に与党の税制改正大綱に示した軽減税率の導入という公約に反するものだから、公明党との関係にも亀裂を生じかねない。少し考えただけでも、これだけ問題が噴出するのだから、やはり実現は不可能とみるべきだろう。

 このまま行けば、財務省の制度案は、絵に描いた餅どころか消費税率10%への引き上げそのものを総理が撤回するきっかけになるだろうと私は見ている。
 現在、安全保障関連法案の強行で、安倍内閣の支持率は危険水準と言われる40%前後まで落ちている。今後も、原発再稼働、辺野古の米軍基地建設、TPP交渉での大幅譲歩など、支持率を下げる要因が目白押しだ。そうした状況の中で、マイナンバー活用による還付制度導入で大混乱が起きれば、政権にとっては致命傷になる。

 私は、このままでは来年夏の参議院選挙の直前に、安倍総理が消費税率の引き上げ撤回を宣言するだろうと考えている。参議院選挙に勝利するためには、他に方法がないからだ。しかし、それは財務省が最も恐れるシナリオだ。
 財務省としては、消費税引き上げ撤回ではなく、準備が整うまでの凍結の形で、どうしても10%への道筋は残して置きたい。そこで、わざわざ準備に時間のかかる制度を提案して、安倍総理に凍結の口実を与える。安倍総理は、凍結をテコに参議院選挙で勝利し、憲法改正に向かう。財務省と安倍総理による完全な出来レースかもしれないのだ。

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