林ゆめ 2018年12月6日号

本好きリビドー(110)

掲載日時 2016年06月25日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年6月30日号

◎快楽の1冊
『横浜1963』 伊東潤 文藝春秋 1500円(本体価格)

 タイトルから分かる通り、まさしく昭和38年=1963年の横浜が主舞台になっている小説だ。
 主人公は2人である。神奈川県警のソニー沢田。外見は白人だが、日本人として日々を生きている。アメリカ人の父、日本人の母との間に生まれたハーフだ。もう1人は米海軍で犯罪捜査を担当しているショーン坂口。彼は日系三世であり、ソニーとは逆に見た目は日本人だが国籍は米国だ。この2人が殺人事件の犯人捜しを行うのである。
 何と魅力的な主人公たちであろうか。彼らはストレートに外見通りに生きてきたわけではない。アングロサクソンとも日本人とも言い切れない、中間の立場から逃れることはできない。その複雑な気分が彼らの内面にコンプレックスをもたらした。ゆえに社会全体に対して斜に構えた屈折を持っているのだが、同時にマイナスの状態に陥った者の気持ちを真剣に考える共感意識も強いのである。何者かに殺され、横浜港から見つかった若い女性に心から同情し、捜査のモチベーションを高めていくわけだ。
 作者はもともとミステリー専門の作家ではなく、時代小説、歴史小説を得意分野としてきた。吉川英治文学新人賞、山田風太郎賞などを受賞しており、評価の高い作家である。昭和30年代の終わり頃、東京オリンピック開催の前年という設定は、いくらか時代小説的なのかもしれない。近未来小説は一定のファンを持つSFジャンルとして確立されているが、本作は言わば近過去小説なのだ。
 日本警察と米軍との軋轢。その葛藤を抱えながらソニーとショーンは犯人捜しを続ける。この葛藤が物語をどんどんドラマティックにしていく。本作ならではの時代設定が活きていると言えるが、日本と海外との緊張関係は今も継続している。その点できわめて現代的な小説でもある。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 この原稿を執筆していた日、歌手のファンキー加藤(38)の不倫スキャンダルのニュースが報道された。加藤の相手は、お笑い芸人・柴田英嗣(40)の元妻。出会った当時、人妻だった女と、妻帯者の男の“W不倫”として騒動になった。
 不倫騒動といえば、ベッキー(32)も記憶に新しい。こちらは独身女子と妻帯者のケースだった。
 芸能ニュースは、現代社会を映す鏡でもある。つまり、妻ある男との恋に落ちる女が、一般社会にもゴマンといる。そんな実態を明らかにしたのが、『不倫女子のリアル』(小学館/740円+税)だ。
 不倫経験ありの9人の体験者へのインタビューをはじめ、どういうタイプの女が不倫にハマるのか、また、探偵が追跡した衝撃の現場など、読み応えあるルポを展開している。
 著者のライター・沢木文さんによると、女性が10人いれば、6人が妻帯者との恋愛を経験しているという。その全員が、独身・既婚を問わず働く女である。経済力はあり、既婚者であれば家庭は一見円満。だが、心の隙間を抱えて癒やしを求め、いとも簡単に禁断の関係に落ちてしまうというのだ。
 だが、相手の男にとっては遊び。しょせんはセックスの“はけ口”に過ぎないにもかかわらず、むくわれぬ恋に身を焦がす。
 ワーキングウーマンなら誰もが陥る可能性のある、現代が抱えた“病”こそが、不倫ではなかろうか。実話読者の身近にいる女性にも、不倫は起こり得るのかも…。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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