葉加瀬マイ 2018年11月29日号

やくみつるの「シネマ小言主義」 米国を裏で動かす「ロビイスト」という存在 『女神の見えざる手』

掲載日時 2017年10月18日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年10月26日号

やくみつるの「シネマ小言主義」 米国を裏で動かす「ロビイスト」という存在 『女神の見えざる手』

 アメリカって国は、こういうライトに楽しめるサスペンス映画を、いったいいくつ作るんだろうと思ってしまった一作。
 「銃規制」という一国を揺るがせるような問題。奇しくも先日、過去最悪の50人以上が死亡した乱射事件がラスベガスで実際に起こってしまいましたが、こういうナーバスな問題すらもハラハラドキドキのエンタテインメントに仕立ててしまい、見る人を飽きさせない劇画のようなテンポのよい展開で乗せられてしまいます。

 主人公は、先を読み、相手の裏をかき、根回しをしまくって世論を操作し、クライアントの要望を叶える法案を通していく、辣腕女性ロビイスト「ミス・スローン」。
 完璧を求める彼女は、私生活と呼べるものはほぼゼロ。欲望は金で解決し、家族も恋人の気配すらないサイボーグのような美女という設定。これがまた徹底しすぎていてちょっと笑えます。
 主人公は緻密な戦略家なんですが、脚本は案外ざっくりしていて、なぜ彼女が銃の所持を支持する会社を辞めてまで銃規制派に加担するのかの理由や、「規制派が勝つにはあと何票足りない」などといった票読みをどのように覆していったのかなど、「活動」の詳細はほとんど語られません。
 まあ、そこがちょっと食い足りない部分ではあるのですが、この映画では彼女の言動のどこまでが意図的なのか、見ているこっちが騙されないよう、先を読むのを楽しんでいただきたい。
 最後の逆転劇は、スカッとカタルシスを感じるはずですので、それまでは辛抱強く見てほしいですね。

 この「ロビー活動」というのは日本では馴染みがないように思いますが、オリンピック招致にあたっては、裏金を渡すなどの「活動」があったと言われています。しかし、マスコミはそれについてまったくといっていいほど追及することなく、あえてなかったことにしてしまっているような気が…。
 間もなく総選挙が行われますが、これも緻密な戦略合戦というより、ムードと思いつきで情勢がコロコロ変わっていくので、やはりこの点では日本はアメリカと比べて前近代的なのでしょうか。ま、しかし、様々な戦略を巡らせ、活動をし尽くした結果、トランプのような読めない人物が大統領になってしまうのですから、現実は映画とは違うということかも。
 日本には、将棋の藤井聡太くんのような「先読み」の達人がいるわけですから、この特殊能力を、何とかわが国の先行きを照らし出す灯りとして活用していただくわけにはいかないのでしょうかねぇ〜。

画像提供元:(C)2016 EUROPACORP - FRANCE 2 CINEMA

■『女神の見えざる手』監督/ジョン・マッデン
出演/ジェシカ・チャステイン、マーク・ストロング、ググ・バサ=ロー、ジョン・リスゴーほか
配給/キノフィルムズ

 10月20日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー。
 大手ロビー会社の敏腕ロビイストとして活躍してきたエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は、銃の所持を後押しする仕事を断り、銃規制派の小さな会社に移籍する。卓越したアイデアと大胆な決断力で困難と思われた仕事を乗り越え、勝利を目前にした矢先、彼女のプライベートが暴露されてしまう。さらに、予想外の事件によって事態は悪化していき…。

やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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