葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(103)

掲載日時 2016年04月27日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年5月5日号

◎快楽の1冊
『真実の檻』 下村敦史 KADOKAWA 1600円(本体価格)

 ガッツがあれば幸福な生活を送れる、とは限らない。なぜなら、人はたった1人で生きているわけではないからだ。まずは産んで育ててくれた両親の経済状況、小中学校に進んでからの友人関係などなど、何らかの事情が絡み合って、人の人生は変転していくのである。なので、ガッツがいくらあっても、どうもうまく行かない人がいるし、特に努力をしなくても、たまたま環境が恵まれていてストレートに幸福な人生を送る人もいる。
 このあたりの人生の複雑さについては脚本家・山田太一が的確によく語っているので、興味がある方は山田氏の雑誌インタビューを読むことをお薦めしたい。
 さて本書『真実の檻』は大学生・石黒洋平が主人公だ。彼はツアーコンダクターを目指しており、サークルの旅行研究会に所属している。至って平均的な大学生なのだ。しかし、母が病死し、その遺品を整理する過程で、すでに離婚している父親が実の父ではないのでは、と疑いを持つ。母が別の男性とまさしく仲よさげに写っている写真を見つけるのだ。
 この男性はいったい誰なのか。興味を掻き立てられインターネットなどで調べていくうちに、洋平はその写真の男性が実は自分の真の父であり、離婚したほうの父とは血がつながっていなかった、ということを知る。しかも真の父は今、死刑囚として収監されている。今まで、素直にツアーコンダクターを目指して学生生活を送っていた自分は、何も分かっていなかったのではないか。自分の出自、ルーツを知りたい一心で彼は本気で調査を始める。
 作者は2014年、『闇に香る嘘』で江戸川乱歩賞を受賞し、その後もコンスタントに作品を発表して評価を上げている。今回も複雑な家庭環境に悩みながら、真実を追求しようとする大学生の姿が素晴らしい。いい意味で自分探しの小説だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 フランス人は年に120回セックスし、「性生活に満足している」と思っている人が38%。2006年に英国のコンドームメーカー、デュレックス社が調査した結果だ。1カ月に換算すると月に10回だが、満足しているのは半数にも満たない。まだまだ多くの回数をこなしたいという、貪欲さがうかがえる。
 セックス大国ともいえる、そのフランスから届いたのが『セックス・アンド・ザ・シックスティーズ』(エクスナレッジ/1700円+税)という1冊。タイトルにある通り、60代以上のシニア層31人の赤裸々なセックスライフがつづられている。パートナーを探すのに夢中になっている人もいれば、夫婦で理想のセックスを追求するカップルもいる。むろん中には、セックスはもう卒業とあきらめている者の意見もある。様々なタイプがいるものの、性をナチュラルに語る姿は、日本人よりはるかに積極的に映る。
 日本でも高齢化社会を反映してか、シニアのセックスに言及した本は少なくない。だが、「こうあるべき」という理想を高く掲げてはいるが、実際のセックス回数や満足度は、フランスより格段に低い。
 その理由は、本書を読めば分かる。フランス人はセックスを楽しむため、自ら試行錯誤し、悩む。つまり“頭”を使っている。その柔軟な思考こそが、老いを防止している。
 ちなみに前出の調査では、日本は年45回で、調査対象の国中で最下位、満足度もわずか24%だ。性に対する意識は国によって違うとはいえ、いかにも貧弱だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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