葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(112)

掲載日時 2016年07月09日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年7月14日号

◎快楽の1冊
『モハメド・アリ−−永遠のチャンピオン』 ベースボール・マガジン社 926円(本体価格)

 モハメド・アリが6月初旬に亡くなった。74歳だった。これを受けて同月12日に特別追悼番組がテレビ朝日系で放映されたのだった。
 最大の呼び物は1976年に行われたアントニオ猪木VSアリの闘いのノーカット放送。15ラウンドの試合だった。
 私は当時小学生で、リアルタイムでテレビを見ていたのだが、何だかよく分からなかった。それはそうだろう。プロレスとボクシングのルールが異なるくらいは知っていたけれど、なぜ猪木が常に仰向けに寝ているのか、分からなかった。時折、彼がアリの全身を抱え込み、アリのほうも回数は少ないながらパンチを繰り出したので迫力は感じたが、結果は引き分け。世紀の茶番と言われた。
 以上は多くの人が知っている有名な話だ。しかし、今年6月の放送は単なる映像の再放送、というわけではなかった。試合中のアリのビッグマウスが聞き取りやすいようにクリアにされ、字幕も付いた。猪木をはじめ闘いに関わった当事者のインタビューを試合放送前に紹介。単なる茶番とは言い切れない、スリリングな駆け引きを理解できたのである。さらに、興味深い映像が番組前半に流された。私はアリの熱狂的ファンではなかったので、数々のビッグマウス・スタイルや名試合をじっくりと見ることができた。
 さて、本書はアリの生涯をもっと詳細に扱った本だ。こういうところが文字媒体の強みなのである。1960年からの全戦記録を掲載。黒人差別撤廃を主張し、ベトナム戦争徴兵を拒否してアメリカ社会全体を敵に回し、どん底の状態に陥るも、そこから奇跡の復活、という流れも丁寧につづられている。パーキンソン病発病後の様子から本葬まで言及。まさしく永久保存版といえる本だ。スポーツ界のスーパースターとは何か、それを知るのにも最適だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 今回紹介するのは、実録ノンフィクション漫画。しかも、28歳の女性が体験した、一風変わった性風俗ルポである。
 『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス/925円+税)は、大学を中退した後、スーパーでバイトし続けるものの、摂食障害などが原因で自分の居場所が見つからず、「何かを変えたい」と選んだのが、レズ風俗で人肌に触れることだったという、何とも不思議な物語。
 なぜレズ風俗かというと、著者の永田カビさんは男性経験がない。つまり処女だから。また、男が相手をする女性向け風俗もあるにはあるが、それには抵抗を感じる。でも、女同士なら…というわけ。
 描かれるシーンに、官能的な描写は少ない。だが、♀×♀にしか分からない会話のやりとり、癒やし、切なさなどが丁寧につづられている。現代の女性たちが何に悩み、何を求めてさまよっているのか、理解できないまでも、その端緒に触れることができるだろう。
 読み終わって、何かを探したいが見つからない、そんな女たちの心情を、男はつかむことすら、できないでいることに気付く。
 この漫画を、現代の女性が挑んだ突飛なチャレンジ、と受け取るのはたやすい。だが、永田さんだけではない、すべての女性に共通する悩みが根底に潜んでいるのではないか…そんな思いに至ることが、できるかもしれない。
 Pixiv(イラストの投稿・閲覧が楽しめるSNS)で話題となった漫画の書籍化。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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