森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 建前と正反対の派遣法改正

政治・2015/07/06 13:00 / 掲載号 2015年7月16日号

 派遣法改正、ホワイトカラーエグゼンプション導入、金銭解雇の合法化を、私はアベノミクスによる雇用破壊3本の矢と呼んでいる。その第一弾として、派遣法改正案が6月19日に衆議院で与党の賛成多数によって可決された。

 派遣労働者の固定化を目論む派遣法改正は、表向きは派遣労働者の職業能力を高度化させ、正社員化を進めるという真逆の目標が掲げられている。実際、法案でも、派遣期間が終了した派遣労働者を直接雇用するよう派遣先に依頼することが義務付けられている。
 もちろん派遣労働を活用する企業は、いつでも切れる労働者として派遣を使っているのだから、正社員にしてくれと言われても、おいそれと受け入れるわけにはいかない。また、採用を拒否しても、企業は何のペナルティーも受けないのだから、正社員化が進むはずがないのだ。

 しかも、今回の法改正で派遣労働者は、一律に3年間しか同じ職場にいられなくなる。これまでは、専門26業務の派遣労働者は、無期限に働くことができた。例えば、テレビ局で働く派遣のディレクターは、5年、10年と同じ番組を担当することが可能だった。それだけ長いこと働いていると番組に必要不可欠の存在になってしまうから、正社員として採用されることもあった。
 ところが、派遣法改正で同じ職場には3年間しかいられなくなる。そうなると、また別のテレビ局で働かないといけなくなるから、せっかく積み重ねてきたノウハウが、すべてご破算になってしまうのだ。

 なぜこんなおかしな法律改正が行われるのか。
 一つは、派遣労働に関するILO(国際労働機関)の181号条約を日本が批准する際に、「正社員から派遣社員への代替防止」という規定が盛り込まれたことだ。国際機関も派遣を増やしてはならないとクギを刺したのだ。しかし、産業界はどうしてもコストが安くていつでもクビの切れる派遣を増やしたい。そこでひねり出した理屈が、「派遣労働者は、臨時的・一時的なものと位置付ける」ということだったのだ。
 そうしておけば、一見、正社員には影響が及ばないようにみえる。しかし実際は、正社員が担ってきた会社の職務が次々に派遣労働者が担うものに変更されていくだろう。これまでの派遣法では、一つの職務をずっと派遣労働者に担わせるということは、人を変えても許されなかった。しかし、新法の下では、3年ごとに人を入れ替えれば、派遣にやらせることができるようになる。派遣の需要が爆発的に増えるのは確実だろう。

 「労働者の中で、派遣労働者の割合は、たった2%に過ぎないのだから、目くじらを立てる必要はない」という意見もある。しかし2%というのは、リーマンショックでとてつもない規模の派遣切りが行われた結果で、逆に言えば、現状2%しかいないからこそ、今後派遣労働者が爆発的に増える可能性があるのだ。
 ちなみに今回の法改正で派遣会社はすべて許可制となった。これで新規参入が制限される。その結果、政府と強いパイプを持つ大手人材派遣業者は、今後収益拡大が確実になったのだ。

 一度、派遣労働者になると正社員には這い上がれない。また、不況になれば真っ先に切られる。これが安倍政権の雇用改革の正体だ。

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