菜乃花 2018年10月04日号

本好きリビドー(101)

掲載日時 2016年04月16日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年4月21日号

◎快楽の1冊
『ミッドナイト・ジャーナル』 本城雅人 講談社 1600円(本体価格)

 新聞記者が書く記事と小説は、決して同じではない。しかし、文章という点ではやはり重なるところがあるのだ。
 記者出身で、エンターテインメント小説の世界に身を投じた作家では、大ベテランの三好徹が代表格の一人と言えよう。読売新聞社に入社後、'68年、短篇『聖少女』で直木賞を受賞した。また、同年に新聞記者を探偵役に配した連作短篇の『天使』シリーズを開始している。明らかに出自を存分に活かしたシリーズだ。
 比較的近年の例であれば、横山秀夫が筆頭に立つ。上毛新聞社に勤務していた。代表作である'02年の『半落ち』、'12年の『64(ロクヨン)』の中にも作者の記者経験が盛り込まれているように感じる。
 さて、そして今、本城雅人もこの系列の仲間に本格的になりつつあるようだ。この作者は産経新聞社に入社後、主にサンケイスポーツで活躍した。小説創作でもその経歴を立脚点にすることが多く、スポーツ界を舞台にしたミステリーで頭角をあらわした。昨年の'15年に出した連作短篇集『トリダシ』は、その分野での今のところの到達点かもしれない。スポーツ紙野球部の記者たちが主要登場人物になっている。
 だが、本書『ミッドナイト・ジャーナル』では、新たな道を開拓した。こちらは長篇で、真正面から犯罪、警察とかかわり合う社会部を中心にストーリーが進むのだ。中央新聞さいたま支局の県警キャップ・関口豪太郎が主役と言っていいが、東京にある本社社会部の藤瀬祐里もかなり目立っている。豪太郎は7年前の誤報の責任を取らされる形で支局に飛ばされた。しかし今、女児誘拐未遂事件が連続し、その取材が名誉挽回になると直感する。この個人的動機と犯罪者を摘発しようとする正義感が見事に混じり合い、ダイナミックなミステリーに仕上がった。新聞記者ものの傑作だ。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 表紙に有名アダルトビデオ女優の名が、小さい文字だが大量に掲載されているのが『痴女の誕生』(太田出版/1600円+税)である。
 週刊実話の読者世代にとって、いわゆる“痴女”という言葉が登場したのは、衝撃的だったろう。何しろ1980年代まで、AVにおいても女性はセックスの際に受け身の存在として描かれていた。ところが90年代に入ると、男をむさぼるように食らう女たちが作品に出始めた。
 こうした痴女たちの登場が、そもそも肉食系女子の“先駆”だったのではないか…つまりAVこそ「女がセックスに強く、男が弱い」という、現在の男女の姿を予見していたのではないかというのが、本書の趣旨だ。
 実際、表紙に名前が連なる女優は、小沢なつきや白石ひとみといった懐かしの清純派から始まり、翔田千里、立花瞳、紅音ほたるなど、新世代の痴女系女優まで網羅され、AV女優が次第に過激化し、淫乱になっていく歴史がひも解かれている。
 そして、そのAV女優たちの姿が、社会をリードしてきたのではないかというわけだ。以前は、セックスに積極的な女は「はしたない」とされていたのに、いつの間にか「女だって性を思う通りに楽しみたい」となった。その風潮を形作るのに、AVが果たした役割は小さくないということだろう。
 今やネットでこっそりAVを見ている女性は大勢いる。女性向け専門のAVメーカーが人気を博す時代なのである。著者はアダルトメディア研究家で、ライターの安田理央氏だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

関連タグ:本好きリビドー

エンタメ新着記事

» もっと見る

本好きリビドー(101)

Close

マダムとおしゃべり館

▲ PAGE TOP