葉加瀬マイ 2018年11月29日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第259回 国土経済学

掲載日時 2018年02月26日 14時00分 [政治] / 掲載号 2018年3月1日号

 国土の「均衡ある発展」というビジョンの象徴ともいえる田中角栄の『日本列島改造論』では、不思議なことに「自然災害大国、日本」の視点がほぼない。
 同著において唯一、自然災害について触れられているのは、
 「いま東京が関東大震災と同じ規模の大地震に襲われたらどうなるだろうか。東京都防災会議、東京消防庁によると、倒壊家屋二万戸、圧死者二千人、地震が発生してから五時間後に品川区、中野区の面積に匹敵する16万平方キロメートルを焼き尽くし、焼死者実に56万人という恐るべき被害が予想されている」(P47)
 の部分のみである。

 『日本列島改造論』は、主に過密、公害、満員電車、大気汚染、劣悪な住居スペース、都市部の物価高騰などを理由に、東京圏から地方に工場(および人)を移転させるべきという発想になっている。土台として日本の国土的条件である「自然災害大国」があるわけではないのだ。主要国の「地震力を考慮する地域」を比較すると、ショックを受ける。「地震力を考慮する」とは、構造物を建設する際に、地震発生を前提にしなければならないという意味になる。
 フランスはピレネーとアルプスの周辺、ドイツはやはりアルプスの周辺、アメリカは主に西海岸が「地震力を考慮する地域」となっている。それに対し、わが国は何と「全土」。日本列島に暮らす限り、「地震」という自然災害からは誰も逃れることができない。地震だけではない。日本は台風や豪雨により、水害、土砂災害が多発する国でもある。さらには、火山も噴火する。

 2018年1月23日、草津白根山の本白根山が噴火。陸上自衛隊第12旅団第12ヘリコプター隊所属の伊沢隆行陸曹長が、部下を庇い、命を落とした。日本の国土面積は世界の約0.25%にすぎない。それにも関わらず、世界の活火山の1割近くが存在する、世界有数の火山大国でもあるのだ。
 加えて豪雪災害。2月6日、日本列島は上空に強い寒気が襲来し、日本海側で大雪となった。福井市では6日午後2時時点で、平年の6倍を超える136センチメートルの積雪を記録した。同日、福井市内では雪に埋まった乗用車の中で男性が死亡した。さらに福井県北部の国道8号線では、約10キロメートルの区間で自動車約1500台が立ち往生し、自衛隊が出動。

 わが国は震災大国であり、台風や豪雨で水害、土砂災害が多発し、火山が噴火する自然災害大国なのだが、同時に世界屈指の「豪雪国」でもある。人口10万人以上の世界の都市の年間降雪量を比較すると7位が秋田市、3位が富山市、2位が札幌市、1位が青森市と、世界ベスト10に4市がランクインしている。
 カナダのバンクーバーやロシアのモスクワなどは、確かに日本よりも寒い。とはいえ、豪雪に見舞われるわけではない。100万人都市では、カナダのモントリオールが年平均2メートルを超す降雪になるが、札幌市は何と6メートル超! 人口80万人を超す新潟市が2.5メートル。
 日本で降雪が多いのは、国土が細長い弓型で、真ん中に脊梁山脈が走っており、北方から日本海の湿気を含んだ空気が流れ込むためだ。脊梁山脈にぶつかった湿気を含む空気が、日本海側に豪雪をもたらすわけである。参考までに、世界山岳気象観測史上、年間積雪量の世界記録は、滋賀県の伊吹山(約12メートル)である。

 驚くべきデータをご紹介しよう。日本のGDPは、世界の6%程度であるのに対し、災害被害総額の17.5%がわが国なのだ(平成26年版防災白書)。日本列島は、GDPという経済規模に比して、諸外国と比べて3倍の災害被害を受け入れなければならない国土なのである。ちなみに、'80年から'13年までの世界の災害による被害総額を見ると、東日本大震災(約2000億ドル)が首位となっている。3位は、約1000憶ドルの阪神・淡路大震災。
 首都直下型地震の30年以内の発生確率は70%。南海トラフ巨大地震(東海地震、東南海地震、南海地震の連動)が30年以内に発生する確率は、50〜87%。自然災害大国である以上、日本政府が技術投資、公共投資により「国民を地震から守る」プロジェクトを継続すれば、わが国が「需要不足」に陥ることなどあり得ない。むしろ、供給能力不足によりインフレの可能性が高まるだろう。
 技術投資や公共投資は、もちろん「GDP」という総需要の一部を成す。それにも関わらず、現実のわが国は「需要不足」というデフレーションに苦しんでいる。つまりは、日本政府が「国民を守る」という国民国家の基本的な機能を放棄しているという話だ。緊縮財政とは、まさしく政府の責任放棄そのものだ。

 国民を自然災害から守るための投資も、立派な需要である。この事実を認識すれば、
 『わが国は少子化で(あるいは「人口減少で」「成熟化で」)需要は増えない』
 などといった言説が、まさに「世迷言」であることが理解できるはずだ。
 日本列島は地震大国、自然災害大国である。だからこそ国民は可能な限り「分散」して暮らし、かつ「高速交通網」により市場として「統合」しなければならない。そうすることで、防災安全保障強化と、経済成長を両立する。

 自然災害大国とは、確かに厳しい国土だ。もっとも、自然災害大国は「国民が互いに助け合う」という意味のナショナリズムを醸成しやすい。あるいは、政府が国民の防災を真剣に考えたとき、「需要が尽きることがない」といった面もあるのである。
 日本は今、自然災害大国という厳しい国土環境を「活かして」経済成長し、繁栄する道を模索するべきだ。そのためにも、単純な机上の経済学ではなく、国土的条件を加味した「国土経済学」がわが国には必要なのである。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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