葉月あや 2019年5月2日号

田中角栄「名勝負物語」 第五番 小沢一郎(3)

掲載日時 2019年02月11日 06時00分 [政治] / 掲載号 2019年2月21日号

田中角栄「名勝負物語」 第五番 小沢一郎(3)
小沢一郎

 死去した父・小沢佐重喜代議士の後継に決まった小沢一郎は、田中角栄から伝授された選挙作法を胸に、次期総選挙への準備に入った。昭和44(1969)年の年明けである。

 田中からの「戸別訪問3万軒、雨でも雪でも休まずの辻説法で5万人と握手せよ」との選挙作法伝授は、忠実に実行した。当時の中選挙区〈岩手2区〉は、べらぼうに広い。一郎が朝早く出、事務所に戻ってくるのは毎晩12時頃であった。当時の後援会幹部の証言が残っている。

「演説は、元々が口下手、寡黙な青年だっただけに、お世辞にもうまいとは言えなかった。声が小さく、生マジメにはしゃべるが、情熱のほとばしりなどはまったく伝わらない。一方で、会合では酒が付きものだが、アイソがニガ手だけにそれこそアブラ汗3斗、必死でお付き合いしていた。ただ、実直さだけは買われたようだった」

 そうした中、この年11月、時の佐藤栄作首相が訪米してニクソン大統領と会談、3年後の昭和47年に「沖縄の施政権返還」を決めたことの共同声明を発表した。直ちに佐藤はこれを追い風とし、政権浮揚を目指すための衆院解散―総選挙の挙に出たのだった。「沖縄返還解散」と言われ、投票日は12月27日と決まった。自民党の選挙指揮官は、幹事長の田中角栄であった。

〈岩手2区〉は、定数4。事実上、有力候補5人の争いとなった。自民党からは新人の小沢のほか、のちに外相、副総裁を務め三木武夫の総裁「裁定」で知られた椎名悦三郎、そして志賀健次郎の3人。社会党からは千葉七郎、北山愛郎である。ということは、うち1人が“貧乏くじ”を引く勘定になるのだが、メディアによる戦前予想は、おおむね「ダンゴ状態。5人のうち誰が落ちても不思議ではない」というものだった。

 結果、「弔い合戦」の同情票、田中幹事長直々の物心両面にわたる支援も手伝い、小沢は2位の千葉に2万票近くの差をつけ、堂々のトップ当選を飾ったのだった。ちなみに、田中幹事長が指揮を執ったこのときの選挙は自民党が圧勝、選挙直後の無所属当選の追加公認分を加えると、じつに300議席となり、田中にとっては「日の出の幹事長」にさらに弾みをつける結果ともなっている。

 また、人材としても「当たり年」とされ、この選挙で初当選を飾った議員の多くが、その後、第一線で活躍することになる。やがて首相になる羽田孜と森喜朗、ラツ腕で鳴らした幹事長で首相候補の声もあった梶山静六、衆院議長や幹事長をやった綿貫民輔、無所属当選で追加公認を受け、厚相など大臣を歴任した後に衆院副議長となる渡部恒三、社会党からは、やがて党首となり衆院議長も務めた土井たか子などであった。

★厳しく接した田中
 さて、初当選を飾った小沢ではあったが、田中はある程度、距離を取って小沢と接していたようだった。次のような小沢の言葉がある。
「たしかに本当の息子のように接してはくれたが、こと政局などに触れるところでは、こちらが口をはさんでも、まったく相手にしてくれなかった。とくに、私を含めての二世議員には、厳しすぎるほど厳しかった。甘ったれるなといった、突き放す姿勢を感じた」

 そうした小沢の2回目の当選は、昭和47年12月の総選挙であった。この年7月、田中はシ烈な「角福総裁選」を制し、首相の座に就いていた。前任の佐藤栄作首相の退陣表明を受け、田中は総裁選前の5月の時点で、すでに佐藤派から独立、衆院議員41人、参院議員42人の計83人で田中派を旗揚げしていたのである。5月9日、向島の料亭『いな垣』で、この田中派による事実上の“田中内閣樹立決起大会”が開かれた。

 このとき乾杯の音頭を取らされたのが、まだ1年生の小沢であった。これは、「軍士」として派内で一目置かれていた幹部格の木村武雄のサシガネであった。田中が「秘蔵っ子」として小沢を遇していることを知ったうえでの木村の“計らい”だったのである。

 これを受け、こうした場面で見得を切るなど派手な言動がニガ手な小沢も、さすがに気持ちの高ぶりを抑えられなかったか、精一杯の大声を広間に響かせたのだった。
「田中内閣の樹立を目指し、頑張りましょう。乾杯!」

 これを機に、小沢のそれまで遠慮がちだった物事への対応が、時に血の気の多さを見せ始めるのである。活発な派閥の動きにいまひとつ燃えない、先輩議員の竹下登と対峙することも辞さなかったのだった。
(文中敬称略/この項つづく)

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小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材49年のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『愛蔵版 角栄一代』(セブン&アイ出版)、『高度経済成長に挑んだ男たち』(ビジネス社)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。

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