本好きリビドー(225)

エンタメ・2018/10/23 15:00 / 掲載号 2018年11月1日号

快楽の1冊
『樹海考』 村田らむ 晶文社 1550円(本体価格)

★歴史的背景から樹海に眠る遺物まで
 ゴホンといえば龍角散、ケーナといえば田中健。同じく半ば条件反射的に、樹海と聞けばすぐ自殺を連想してしまうクチの筆者だが、90年代中頃に刊行され、賛否こもごもの大物議を醸しまくったベストセラー『完全自殺マニュアル』の影響も忘れることはできない。

 同書で自殺の三大“名所”として挙げられた中でも、最もお薦めのスポットと強烈に太鼓判を押されたのが富士の樹海。数々の謎めいた都市伝説も彩りを添えて、ではそれだけ“ヤバい空間”扱いでひたすら忌み疎まれているかといえば、現在、決してさにあらず。

 最近では、渡辺謙とマシュー・マコノヒーとが主演の映画『追憶の森』(ガス・ヴァン・サント監督)の舞台に選ばれ、世界的にもその知名度は急上昇。著者によれば今や隠れた国際観光地である側面も見逃せないという。それにしてもメタル系のバンドで、「AOKIGAHARA(青木ヶ原)」なんてそのものズバりすぎる名前のグループまでいるそうなのにはさすがに苦笑い(とはいえ「メガデス〈=大量死〉」に比べりゃあ、はるかにかわいいものか?)。

 本書は趣味と実益を兼ねて20年、樹海探索に励んだ経験に富む著者ならではの初心者への格好の入門編だ。

 無論、単なる興味本位なだけで樹海を語るのでなく、その成立の歴史をひもときつつ、木花咲耶姫を祭神とする浅間神社に始まり、かつてのオウム真理教の施設、サティアンに至る樹海=富士を巡る信仰の数々、ごく一般人で執拗に樹海に憑かれたように通う人々など樹海にまつわるエトセトラへの考察を通じてその魔力の正体に迫る。

 雑誌の企画で元殺人犯を樹海に案内する破目になるエピソードの一章は圧巻。著者主催の「樹海ナイト」ものぞいてみたくなるはず。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 居酒屋に行くと1杯目は「とりあえずビール」という諸氏は多いのではないだろうか。それほどビールは我々の身近にあるアルコールだ。

 だが、その割にビールについての雑学・ウンチクは知らない。そもそも生ビールの「生」とは? 今年4月にビール税が改定されたが、この酒税の料金はどうやって決まっているのか? 缶と瓶では味に違いがあるように感じるのはなぜ?

 そうした素朴な疑問のすべてに答え、ビールをおいしく、かつ愉快に飲むための1冊が『ビール今昔そもそも論』(ジョルダンブックス/880円+税)である。

 タイトルに「今昔」とあるくらいだから、かつてのビール事情についても多くの逸話が紹介されている。一例を挙げると、今では死語となってしまった「ビヤホール」の誕生当時(明治時代)は、本当に飲むだけで、料理など一切メニューになかったのだ。

 世界のビールも紹介している。興味深いのは「世界のビール・ベストテン」。果たして1位はどの国か?

 ビールを活力の源と考えているイギリス人、泡が大嫌いなオーストラリア人、さらにアメリカ、ベルギーなど、諸国の好みについてのウンチクも満載だ。

 著者の端田晶氏は、サッポロビール文化広報顧問。また、日本ビール文化研究会理事顧問でもある。また、「日本ビール検定」という検定試験も毎年実施しているという。ビール好きの方は、本書をテキストに一度受験してみると、さらに楽しめるかもしれない。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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