RaMu 2018年12月27日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 ★第294回 パラダイム・シフト

掲載日時 2018年11月06日 20時00分 [政治] / 掲載号 2018年11月15日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 ★第294回 パラダイム・シフト
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 パラダイムとは、本稿では「歴史的な時代の枠組み」を意味している。例えば、第二次世界大戦後の世界は、アメリカを盟主とする西側陣営と、ソ連が主導する東側陣営が対立する「冷戦」というパラダイムに支配されていた。80年代にミハイル・ゴルバチョフがソ連共産党書記長に就任し、ペレストロイカ、グラスノスチといった政策が推進され、'92年にソ連が崩壊。冷戦のパラダイムは終わった。

 その後'89年の天安門事件を経て、'01年に中国がWTOに加盟して以降に始まったのが、第287回でも取り上げた「チャイナ・グローバリズム」のパラダイムである。

 '18年4月、アメリカのピーター・ナヴァロ経済補佐官がWSJに寄稿し、中国のアンフェアなグローバリズムについて猛烈な批判を展開。ナヴァロ教授によると、中国は、
●知的財産権の侵害
●国内市場へのアクセスを交換条件とした外国企業に対する技術移転強要
●高い関税障壁(中国の自動車関税はアメリカの10倍)
●外国企業に厄介な事業免許要件や出資比率規制を課す
●国有企業や中国政府が資金支援する企業に土地や資本を助成
●国内企業に対する無数の輸出補助金や寛大な税制優遇措置
●為替介入による人民元の為替レート調整
●政府系ファンドの活用
 といった手法を用い、経済力を強化したとのことである。

 その後、'18年9月27日、安倍総理が訪米し、日米首脳会談が開催される。そして、首脳会談後に発表された共同声明に、重大な文章が記載されていた。

【外務省 アメリカ合衆国 日米首脳会談('18年9月)】
「(共同声明)6日米両国は、第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。したがって我々は、WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに、知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため、日米、また日米欧三極の協力を通じて、緊密に作業していく」

 お分かりだろう。日米首脳会談後の共同声明「6」は、明らかにナヴァロ教授の主張に基づき、中国のアンフェアなグローバリズムに日米、日米欧三極で「対処する」ことを宣言しているのだ。

 つまりは、安倍総理はチャイナ・グローバリズムに対し、アメリカ同様に「対処」していくことをコミット(責任を伴う約束)したことになる。具体的には、対中投資、対中貿易、対中技術供与等について「規制」をかけねばならないのだ。

 また、中国の「軍事抗争」である一帯一路については、'18年4月時点でハンガリーを除くすべてのEU加盟国の大使が、中国政府に書簡を送り、
「透明性、労働基準、債務の持続可能性、オープンな調達手続、環境保護の諸原則を中核とするべきだ」
 と要請。マレーシアを先頭に、アジア各国も「反・一帯一路」に舵を切った。

 以前にも触れたが、アメリカ政府は'18年8月16日に公表した、中華人民共和国の軍事力に関する'18年度年次報告書(「中国の軍事と安全保障の発展についての年次報告書」)において、一帯一路について構想自体が軍事的な要素を含んでいると断定している。中国は「一帯一路」により、まずは相手国の中国資本に対する依存状態を作り出す。その後、資本的関係を相手の弱点として利用し、軍事関連の権益の移譲に持っていく。

 中国の一帯一路は、中国製造2025同様に、表向きは「経済政策」だが、実態は「軍事構想」なのである。少なくとも、アメリカ政府は中国共産党の狙いを正確に見抜いている。一帯一路は、中華思想に基づく「中華民族の偉大な復興」を実現するための軍事構想であり、特に債務返済が滞った国々を「属国化」していく植民地主義でもある。

 興味深い話だが、中国が一帯一路構想に基づき、
「カネを貸し付け、中国企業が資材を輸出し、ヒト(労働者)も送り込む」
 と、やっていることは見事なまでにグローバリズムの「モノ、ヒト、カネの国境を越えた移動の自由化」という路線に沿っている。

 本来、自由貿易だ、グローバリズムだと主張する者は、一帯一路に反対してはいけないのだ。何しろモノやヒト、カネを自由に移動させることこそがグローバリズムだ。

 結果的に、“カネを返せなくなった国が属国化しても、それは自己責任である”という話には、もちろんならない。要するに、グローバリズムの思想には「国家」という概念が欠けているのだ。

 国家主導で「一方向的な」グローバリズムを推進し、モノ、ヒト、カネを送り込み、アメリカ政府の言う「資本的関係」を弱点として利用し、軍事権益を獲得していくなどという国の存在は、グローバリズムの教義の想定外なのだ。

 すなわち、グローバリズムは中国のような国が出てこないことを前提とした、「平和な時代」の贅沢品にすぎないことが理解できる。本来、グローバリズムは「覇権国」が絶大なパワーで各国にルールを守らせることなしでは成立しない。中国のような「アンフェアなグローバリズム」を許してはならないのだ。

 ところが、過去20年間、中国はアメリカの「政治」を巧みに活用し、アンフェアなグローバリズムを継続し、国力を増強。ついに、アメリカの覇権に挑戦する段階にまで成長してしまった。

 当然、現覇権国のアメリカは「それは許さない」と、対中強硬姿勢に転じ、諸外国を巻き込み、アンフェアなチャイナ・グローバリズムの破壊に乗り出した。つまりは、現在の米中抗争の肝は「覇権国と挑戦国」の関係であり、単なる貿易紛争ではない。これまでのチャイナ・グローバリズムを認めていた「パラダイム」がシフトしつつあるのである。

 それにも関わらず、相変わらずわが国は「日中友好」「一帯一路はビジネスチャンス」などとやっている。日本の政界、財界、さらにはマスコミのあまりの「空気の読めなさすぎ」に、筆者は正直、恐怖している。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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