菜乃花 2018年10月04日号

日朝首脳会談 北朝鮮が突きつける「非核化」「戦後賠償」費用100兆円超

掲載日時 2018年06月26日 08時00分 [政治] / 掲載号 2018年7月5日号

 ドナルド・トランプ劇団による“6月12日・シンガポール公演”は、主役のトランプ大統領が「会談はパーフェクトだった」と自画自賛したが、公開された米朝間の合意書を見る限り、内容は過去のやり取りから大幅に後退している。そればかりか、ディール(取引)の達人とは名ばかりの単なるコストカッターだったことがハッキリした。
 「米中韓ロの4カ国は口をそろえて『朝鮮半島の非核化』とは言うものの、実際は非核化に強い関心があるわけではありません。米国は『アメリカ・ファースト』ですから、すでに米国に届くICBMの開発を北朝鮮に断念させ、核実験場を爆破させたことで目的を達成しています。トランプ大統領は米朝首脳会談で『ノーベル平和賞が取れるかも』という程度の軽いノリで臨んだのです。中ロは米韓軍事演習がなくなったことと、緩衝地帯としての北朝鮮が残ることでウハウハでしょう。韓国は腹の中では、北に核があっても別に邪魔にはならないと思っていますから、中国とタッグを組み、歴史認識で日本を非難しながら非核化費用を出させようとするでしょうね」(国際ジャーナリスト)

 金食いの在韓米軍の撤退について、トランプ大統領は「経費節減になる」と言い切っている。その上、北朝鮮が日本をターゲットにしている中距離ミサイルを除去するための「完全な非核化」については、「正恩と話はつけた。後はシンゾーがカネを出してやれ」と日本に丸投げだ。実際、トランプ大統領は正恩委員長に次のように語り掛けている。
 《米国としては、完全な非核化が実現されれば経済制裁は解除するつもりだが、本格的な経済支援を受けたいと考えるなら日本と協議するしかないだろう。ただし、日本とは直接会談して拉致問題を解決しない限り、経済支援は期待できない》
 このように拉致問題に言及してくれてはいるが、その裏では、米朝会談前から米朝和平後の投資によるもうけ話でロビイストたちが蠢いていた。拉致問題の解決より、もうけ話の延長線上で正恩委員長への先の囁きがあったのだ。
 「ロビイストたちの目当ては、総額で6兆4000億ドルと試算されている北朝鮮の豊富な地下資源です。手つかずの観光開発やさまざまなインフラ整備の可能性など“巨大プロジェクト”もゴロゴロ転がっている。そこでロビイストらは、『日本を巻き込んだらいい』とトランプ政権に知恵を付け、その金額を戦後賠償と経済協力という名目で1兆〜2兆ドルだとトランプ大統領に吹き込んだのです」(在米日本人ジャーナリスト)

 1兆ドルは日本円にして100兆円超だ。日本の年間の一般会計予算が100兆円弱なのに合計2兆ドルなどあり得ない話だが、民間企業による投資も含め、10年、20年かけて日本から引き出そうということらしい。
 韓国サムスン証券も6月13日、北朝鮮が対日請求権を行使し、200億ドル(約2兆2000億円)を受け取れると分析している。
 「何しろ安倍首相の相手となるのは、百戦錬磨のディールに長けたトランプ大統領さえ『才能がある』とヨイショしたタフネゴシエーターの正恩委員長です。拉致問題の解決を熱望する安倍首相の足元を見て、賠償金を数兆円単位で上乗せしてきてもおかしくありません。トランプ大統領が米朝首脳会談で拉致問題を提起したのは『完全な非核化』を求める安倍首相に、カネを出させるために仕組んだワナとも思えてきます」(北朝鮮ウオッチャー)

 5月14日の衆院予算委員会で、安倍首相は再び『日朝平壌宣言』について言及するようになった。「平壌宣言に則って、拉致、核、ミサイルを包括的に解決し、両国間の不幸な過去を精算し、国交を正常化するという方針に変わりはない」と述べたのだ。
 「2002年9月、当時の小泉純一郎首相は、金正日総書記と会談して『日朝平壌宣言』に署名しています。小泉内閣の官房副長官として安倍首相も関与した同宣言こそ、現在の安倍政権が『圧力』から『宥和』へと転じる大義名分になり得る唯一無二のよりどころです」(政治ジャーナリスト)

 5月15日に韓国で出版され、ベストセラーになった太永浩元駐英北朝鮮公使の回顧録『3階書記室の暗号』に、この平壌宣言の内幕が登場する。それによると、日本は戦後賠償として100億ドル出す用意があると北側に伝えたとある。
 この試算額は、韓国が1965年に受けた経済支援の額を当時のレートで換算したもので、日本円では約1兆円になる。正日総書記は100億ドルのために自尊心を曲げて拉致を認め、日本の首相に謝罪したのだ。
 「当時の北朝鮮は、経済支援を日本に頼るしかなかったのです。しかし同宣言はアメリカの横ヤリで、戦後賠償が実を結ばなかったため、北はその後『拉致は解決済み』と主張し、日本との交渉に応じなくなってしまいました。以後、同宣言はホコリをかぶったままですが、今回は米国の口添えがあったとはいえ、北サイドには今や拉致問題を解決して日本からの援助を引き出そうとする切迫感がありません。中ロが制裁解除に動くのはほぼ確実だからです」(前出・北朝鮮ウオッチャー)

 太永浩氏は、北朝鮮に拉致され行方不明になっている拉致被害者についてキーマンの存在を挙げている。それは著書のタイトルにもある3階書記室の室長・金昌善氏だ。彼は現在、国内的には国務委員会部長、対外的には正恩委員長の首席補佐官として突如、表舞台にデビューし、米朝会談、二度の中朝、南北会談を差配した事実上のナンバー2といわれる人物だ。
 「拉致が頻繁に起こっていた時代、金昌善氏は人民武力部(現:省)傘下の『対外事業部』の上級指揮官でした。拉致被害者のすべてを知っている人物といわれています」(在日韓国人ジャーナリスト)

 北朝鮮側は'02年と違い、韓中、そしてロシアまで自陣サイドに引き寄せている。残念ながら日本からの経済支援のために再び拉致問題で譲歩するとは考えにくい。
 「北朝鮮に対する過去の清算は、韓国・朴正煕政権のときに解決済み。当時の5億ドルには北朝鮮復興も含まれており、さらに『平壌宣言』で、お互いに請求権を放棄することが合意されています。日本の外交当局は正恩-昌善ラインにこう切り出すべきです。世界にデビューするためには人権問題、わけても日本の拉致被害者を帰すべきだと」(前出・政治ジャーナリスト)

 '98年から'02年にかけて朝銀信用組合系の16の北朝鮮系信組が経営破綻し、日本は公的資金1兆3600億円を血税から負担している。'17年8月2日、東京地裁は朝鮮総連に対し910億円の支払いを命じる判決を下し、結果的に東京の一等地に建つ朝鮮総連ビルは競売に掛けられたが、その額は損害遅延金にも及ばず、おまけに朝鮮総連はここに居座り続けている。
 「だから米国籍の3人の人質と同じく、無償で拉致被害者を全員返還しろ! と正恩委員長に突き付けるべきなのです」(同)

 翻ってトランプ大統領は、国際条約や合意書にあまり重きを置かない稀有な政治家だ。イランとの核合意破棄を見るまでもなく、トランプ大統領の外交ルールを無視したやり方は北との交渉では大きな武器となる。
 正恩委員長はトランプ大統領の“次の一手”が読めない限り、非核化を中断すればトマホークが飛んでくる恐怖から逃れることはできない。日本はその脅しに“乗っけてもらう”しかないのだ。

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