祥子 2019年5月30日号

本好きのリビドー(252)

掲載日時 2019年05月15日 15時30分 [エンタメ] / 掲載号 2019年5月23日号

本好きのリビドー(252)
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快楽の1冊
『泥沼スクリーン―これまで観てきた映画のこと』
春日太一 文藝春秋刊 1450円(本体価格)

★映画で青春を縦横無尽に語る

 一本の映画は人生の記憶を喚起する装置である。わが身を顧みて思い出すだけでも、子供の時分に渋る父を無理矢理付き合わせた『バタリアン』。泥酔する母を介抱がてら見る破目になった『お葬式』(劇場がテアトル新宿だったのまで覚えている)。大学に入って初めて女を誘ってみた『ブルー・イン・ザ・フェイス』と、見終えてから同じ彼女に別れを告げられた『あの胸にもういちど』。ろくに就職もせず、なし崩しに芸人になりたての頃、人間不信に陥りかけた際に横浜の名画座でたまたまぶち当たって号泣した『博奕打ち いのち札』と『山口組三代目』の二本立て…邦洋問わずいずれも、過去の己れと切っても切り離せぬ作品群だ。

 『時代劇は死なず!』でデビュー以来、“映像作家としての勝新”を再検証した『天才 勝新太郎』、血湧き肉躍るノンフィクションの大傑作にして歴史書の風格すら湛えた『あかんやつら―東映京都撮影所血風録』など数々の話題作を世に問い、うるさ型の映画ファンはもとより、取材対象である俳優たちやスタッフ陣からの信頼も厚い著者。プロの映画史研究家の立場に徹する余り、これまでの著作では映画を語るいかなる場合にも“私”性が入る余地を極力排除してきたという。

 そのストイックな姿勢は見事だが、あえて自ら封印を解いて偏愛する個々の映画への熱き思い入れを全開に吐露した最新刊の本書、文学作品でも私小説好きに惹かれる筆者のごとき読者にはむしろより一層興味深い。悶々とした思春期に、映画館の暗闇にしか精神の安息の地を見出せなかった面々には無言の連帯感、根拠はなくとも戦友感を催されてならない。巻末に付された宇多丸氏との対談も、映画好きなら身につまされることばかり。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 週刊実話のこの号が発売される日は、すでに元号は「令和」となり、新しい天皇陛下が即位している。ここで、天皇制の歴史を振り返っておくことも、あながち無駄なことではないだろう。

 天皇制とは何か? その答えを約1300年前に生きた稀代の政治家の発想に求めた1冊が『天皇制のデザイン』(法藏館/2700円+税)である。そして、その政治家の名は藤原不比等(ふじわらのふひと)。

 大化の改新で名高い中臣鎌足の子であり、中世まで日本を実質支配した摂関家・藤原氏繁栄の基礎を築いた人物だ。平城京(奈良)への遷都を主導したのも不比等なら、日本が成立する過程を追った歴史書『日本書紀』編纂にも不比等が関わっていたとされる…。と、難しいことは抜きにして、要は権力と優秀な頭脳を併せ持った“悪魔的”(本書より)な政治家だった。

 不比等が考え出した「天皇を君主とする国の体制」が天皇制だ。不比等は天皇を「天上の神」と位置付け、加えて律令制という制度の下で天皇に権力・軍事・富が集中するシステムを造る。かくして神の子孫である君主の下、国が成立する。

 現代では天皇を神の子と考える人はいないだろうが、不思議なことに天皇の系図をたどっていくと、現在も神にたどり着き、それが日本の正史として認められるとされる。つまり、我々日本人は不比等が考えた国の体制を、いまだに踏襲して暮らしているのである。

 不思議の国・ニッポンの謎を読み解く好著。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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