葉月あや 2019年5月2日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 ★第303回 ヨーロッパの奇妙な死

掲載日時 2019年01月15日 06時30分 [社会] / 掲載号 2019年1月24日号

 ’18年12月14日、東洋経済新報社からダグラス・マレーの『西洋の自死』が刊行になった。評論家の中野剛志氏が解説を書いている本書は、原題が「The Strange Death of Europe」である。つまりは「ヨーロッパの奇妙な死」だ。

 本書はイギリスのジャーナリストのマレー氏が、移民流入により死につつある「ヨーロッパ文明」についてまとめた1冊になっている。本書は、冒頭からして衝撃的だ。

『(引用)欧州は自死を遂げつつある。少なくとも欧州の指導者たちは、自死することを決意した』

 本書を読めば、マレー氏の嘆きが単なる煽りではなく、現実であることが理解できる。特に近年、膨大なイスラム教徒の移民が流入した結果、ヨーロッパは文明として死に向かいつつある。少なくとも、我々が認識する「欧州文明」の根幹や文化、伝統、ライフスタイル、さらに価値観は、明らかに喪失への道を歩んでいる。

 元々、ヨーロッパ、特に西欧諸国は、第二次世界大戦後の高度成長期に、人手不足を補うために外国人労働者、つまりは移民を受け入れ始めた。

 例えば、ドイツ(当時は西ドイツ)は1955年以降に極端な人手不足に陥り、労働力が必要になった。当初は南欧(イタリア、ギリシャ、スペインなど)から労働者を呼び寄せたのだが、1961年からはトルコ人労働者の流入も始まる。

 トルコ人の労働者は男性単身で来独し、簡易宿舎や寮に寝泊まりし、工場や建設現場で働いた。彼らはゲストアルバイター(出稼ぎ労働者)と呼ばれ、1、2年間で入れ替わる「ローテーション制」とされていた。

 ところが、外国人労働者を受け入れた企業側は、仕事を覚えた労働者を手放したくはなかった。さらに、外国人労働者側は、人間として当たり前の感覚として「家族」を呼び寄せようとする。

 結果的に、外国人労働者がドイツに居残り、家族を呼び寄せ、集住化し、「国の中の国」が次々に作られていく。第二次世界大戦後にドイツが受け入れた外国移民の数は、5000万人を数え、現在は住民の8人に1人は外国生まれとなっている。ドイツは「経済界」の要望により、移民国家化したのだ。

 特に、アラブの春以降、ヨーロッパではシリアなど中東からのイスラム移民が激増。イスラム移民の増加を懸念、批判する人は、即座に「レイシスト」「人種差別主義者」といったレッテル貼りにより沈黙を強いられ、政治力を失っていった。

 興味深いのは、ヨーロッパにおいて移民推進派が使ったレトリックである。
「大規模な移民は我々の国々の経済を利する」
「移民は国民の雇用の見通しに何ら影響を与えないだろう」
「高齢化する社会では移民を増やすことが必要だ」
「高齢化は歴史的に前例のないものだ。労働者の数は急激に減少し、今世紀半ばまでにほぼ3分の2になりかねない。この試練への最良の回答は国外から次の世代を迎え入れることだ」
「いずれにせよ移民は我々の社会をより文化的で、興味深いものにする」
「たとえ上記がすべて誤りでも、グローバル化が進む限り、大量移民は止められない」

 これらは、移民受け入れに際し、日本でもお馴染みのレトリックばかりだが、実は本書でマレー氏が紹介した「欧州」における移民受け入れ派の大合唱なのである。欧州の移民受け入れ論は、日本と同じだったのだ。というより、現在の日本の移民受け入れ派は明らかに欧州のレトリックを模倣している。

 しかも、レトリックがすべて出鱈目であるにも関わらず、社会に蔓延しようとする連中が跋扈し、加えて、
「一つの移民受け入れのレトリックが完全論破されても、次なる異なるレトリックが登場し、移民が推進される」
 という点も同じだ。さらには、各種のレトリックを論破されると、最後は宿命論となる。

 ちなみに、欧州で展開された「高齢化で人手不足になるため、移民が必要」というレトリックに対し、マレー氏は、
『(引用)出生率が人口を維持できるレベルを下回っているのは、国民が子どもを欲しがっていないからではない。事実はその反対だ』
 と、筆者と同様に「データ」に基づき否定している。

 イギリスで人口問題の調査を行ったところ、子供を欲しがっていない女性はわずか8%だった。子供は1人でいいという女性が4%。最も多くのイギリス人女性(55%)は、子供を2人持つことを望み、14%は3人の子供を欲しがり、さらに別の14%は4人を欲しがっていた。5人以上の子供を望む女性も5%いたとのことである。

 それにも関わらず、ヨーロッパでも少子化が進み、人手不足が続く。理由は何だろうか。

 これまたマレー氏が書いているわけだが、
『(引用)欧州の大半の国々に住む中間的あるいは平均的な所得の夫婦は、1人の子どもを持つことにさえ不安を抱えているのだ』

 要するに、出産適齢期の夫婦の所得が子供を持つには低すぎるのである。筆者は、日本の少子化の主因は「実質賃金の低下(及び東京一極集中)」であることを、データに基づき主張してきたが、ヨーロッパも同じなのだ。

 恐ろしいことに、移民受け入れは国民の実質賃金引き下げ要因となる。となると、若い世代はさらに子供を持つことに踏み切れなくなってしまい、少子化は終わらない。少子化が続くと、人手不足が深刻化し、「だから、移民受け入れが必要なのだ」と、外国人労働者が流入してくる。移民が増えると、国民の実質賃金が抑制され、と悪循環がどこまでも続くことになる。

 実際に、こうした悪循環を続けたのがヨーロッパである。特に、近年のイスラム移民大規模流入により、西洋は文明として「死」に向かいつつある。

 翻って、現代日本。安倍政権の移民受け入れ策は、最終的には日本文明に「死」をもたらす。ヨーロッパの「事例」に基づき、移民受け入れを何としても食い止めなければならない。日本文明の死を回避したいならば。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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