やくみつるの「シネマ小言主義」 演劇人「佐藤二朗」の振り幅の広さ『はるヲうるひと』

エンタメ・2020/05/17 07:00 / 掲載号 2020年5月21日号
やくみつるの「シネマ小言主義」 演劇人「佐藤二朗」の振り幅の広さ『はるヲうるひと』

(c)2020「はるヲうるひと」製作委員会

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 佐藤二朗さんとは、テレビのクイズ番組で何度かご一緒しました。冗談ばかり言いながら、気配りも緻密な方で、あの佐藤さんが監督としてどんな映画を撮るんだろうと、かなり期待して見ました。

 一言でいうと、「演劇人・佐藤二朗」らしい一作です。

 それはどういうことかというと、「愛とは何か」という超普遍的なテーマを「売春島」という特異なシチュエーションで描いているところ。印象的だったのは、主人公の異母兄弟、そして遊女たちが住む「置屋」の息苦しいほどの作り込み。美術賞というものがあったら、差し上げたいくらいです。登場人物たちの絶望と生きにくさが、ごちゃごちゃで、淫猥で、抜けたくても抜けられない沼のような空間に満ち満ちています。この「密室」感、いかにも演劇的ですね。

 役者陣も、負けず劣らず濃いです。異母兄弟の長男は佐藤さんが怪演。テレビでは見ないドスのきいた強面と、家に帰ったらいいお父さんという、両面の振り幅を見せつけてきます。

 次男は演技力に定評のある山田孝之。今回は、見た目はヤンキーでも心は弱気な男。これにも意外性があります。
 病弱で美貌の妹には仲里依紗。直近で見たテレビドラマで、実はかなりの演技派と認識はしていたのですが、屈折した内面を繊細に表現していて、見ていてヒリヒリします。

 この3人を軸に、遊女たちの悲哀と希望のサイドストーリーが積み重なっていくのですが、オチが自分的にはやや唐突に感じられて…こんな評価になりました。

 話の筋の「腑に落ち」感より、佐藤さんがパンフで語っている「死んだように生きている人々が、それでも生きようともがく壮絶な闘い」を受け取り、何を感じるか、なのかも。

 本作の舞台となった売春を主な生業とする架空の島は、実際にあったようですね。

 長らく都市伝説化していた三重県志摩市の離島「渡鹿野島」のルポを以前、買っておいて積ん読のままだったのですが、この映画をきっかけに読んでみようと、引っぱり出してきました。この映画でも、薬局があったりと、当然、普通の島の生活もあるように描かれていますので、秘境好きの自分としては、いよいよ行ってみたくもなります。

 といっても、全国緊急事態宣言の今、海外はおろか国内すらも移動できません。楽しみだった「相撲・野球・旅」を奪われ、唯一残ったのは「虫」。今は、部屋に飛んできた体長3ミリほどの未知の虫の名前を図鑑で調べたりする毎日です。

______画像提供元_:(c)2020「はるヲうるひと」製作委員会
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■はるヲうるひと
監督・脚本・原作/佐藤二朗 出演/山田孝之、仲里依紗、今藤洋子、笹野鈴々音、駒林怜、太田善也、向井理、坂井真紀、佐藤二朗 配給/AMGエンタテインメント 近日公開。
■至るところに「置屋」が点在する島に3兄妹が暮らしていた。長男の哲雄(佐藤二朗)は店を仕切り、その凶暴凶悪な性格で恐れられている。次男の得太(山田孝之)は兄にこびへつらい、長女のいぶきは長年の持病で床に伏している。ここで働く4人の個性的な遊女たちは哲雄に支配され、得太を見下し、唯一、女を売らず、誰よりも美しいいぶきに嫉妬していた。

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漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、
TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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