久松かおり 2019年4月4日号

田中角栄「名勝負物語」 第三番 石原慎太郎(4)

掲載日時 2018年12月17日 06時00分 [政治] / 掲載号 2018年12月27日号

 これまで例のなかったなんとも目まぐるしい“政界遊弋史”を刻んできた石原慎太郎は、平成11(1999)年、かつて一度は敗北した東京都知事選に再チャレンジ、今度は当選を果たした。

 在職中、定例記者会見をジャンパー姿でやるなどのほか、都職員給与カットを要求して「自殺したり、ホームレスになるよりはいい」、火山活動が続く三宅島視察の翌日には都職員を「木っ端役人」、練馬駐屯地での自衛隊記念式典では「三国人」と発言するなど、怖いモノなしの“石原流”は変わらなかった。一方で、横田基地の全面返還などに意欲を示したものの、ディーゼル車の排ガス規制実施以外、その実績は必ずしも評価の高いものとは言えなかった。特徴的だったのは、国政を意識した活動が多かった点であった。

 この完全燃焼し切れなかった都知事のイスを辞したあと、石原はまったく突然に『天才』と題した田中角栄“激賞”本を出版、大きな話題を得た。あれだけ田中批判に体を張った感のあった石原が、一転して「未曽有の天才」「希代の政治家」と手放しだったからだ。例えば、その『天才』では、次のように記している。少し長いが、抜粋してみる。

 「彼ほど先見性に富んだ政治家は存在しなかったということを、痛感させられた。現在のこの国の態様を眺めれば、その多くが彼の行政手腕によって現出したということがよく分かる。私が東京という首都を預かる知事になって試みながらかなわなかったことの数々は、もし彼が今なお健在であり、彼に相談を持ちかけたなら、かなえられたかも知れぬとつくづく思う。私を若い友人として付き合いをしてくれた佐藤栄作にしろ、異例の抜擢で閣僚に据えてくれた福田赳夫にせよ、田中角栄ほどの異形な存在感などはありはしなかった。

 いずれにせよ、私たちは田中角栄という未曽有の天才を、(ロッキード事件で)アメリカという私たち年来の支配者の策謀で、失ってしまった。歴史への回顧に、もしもという言葉は禁句だとしても、無慈悲に奪われてしまった田中角栄という天才の人生は、この国にとってじつは掛け替えのないものだったということを改めて知ることは、決して意味のないことではありはしまい。この歳になって、田中角栄の凄さが骨身にしみている」(要約)

 都知事として国政を意識した活動が多かった石原の、自らが「田中角栄」になれなかったゆえの無念さがにじむ文章でもある。

 そして、田中角栄に“陥落”した決定的なこんなエピソードを、『天才』ほか他の著作、発言でもこう披露している。

★カブトを脱いだエピソード
「角さんが退陣したあとの昭和52年秋口、スリーハンドレッドクラブ(茅ヶ崎市)のゴルフ場にあるテニスコートでテニスをしてクラブに引き揚げたとき、仲間の参院議員と角さんがいた。私もびっくりして、まずいなと思って仕方なく一礼したら、角さんはいかにも懐かしげに、『おお石原君、久し振りだな。こっち来てすわれよ』と言い、自分から立って窓際からイスを持ってきて自分の横に据えてくれた。私が『いろいろご迷惑をおかけしてすいません』と頭を下げたら、『ああ、お互いに政治家だ。気にするな。ここに来てすわれよ。まあ、ちょっと付き合って一杯飲めよ』と。

 自ら立ち上がって近くにいたウエイターに言うんだ。『おい、ビールをもう一つ』。この人はなんという人だろうと、思わずにはいられなかった。私にとっては、あれは他人との関わりで生まれて初めての、おそらくたった一度の印象的な出会い、経験だった。角さんは好きだね。私は、あの人が好きだったんです。関心がありましたもの。関心があるというのは、好きになる前兆なんじゃないのかな。人間の人生を形づくるものは、何と言っても他者との出会いにほかならない」(要約)

 石原慎太郎、只今86歳。田中角栄が病魔に倒れ、政治的影響力を喪失してから33年の歳月が流れている。田中と石原、長く距離を置いていた二人の“寵児”の関係とは何だったのか。

 途中、政治家としての挫折はあったものの、ほとんど実人生の苦労を知らずにスター街道を走り抜いた石原。対して、田中は貧窮の中で地べたを這い、叩き上げで政界の頂点にのぼった。そこには、いみじくも先に石原が述べているように、実人生とは人との出会いにあることが浮かび上がる。そこから、人間の本質、政治の本質が見えてくるのである。

 石原には、小説家と政治家の“乖離”が残念ながらつかめなかったとも言えた。苦労は買ってでもしろ、との俚諺もあるように、田中は、それを早々に肉体で受け止めていたということだった。

 石原は、こうも言っている。
「日本は田中角栄がつくった」と。
 完全に、カブトを脱いだ述懐ということだった。
(文中敬称略/次回は三木武夫元首相)

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小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材49年のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『愛蔵版 角栄一代』(セブン&アイ出版)、『高度経済成長に挑んだ男たち』(ビジネス社)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。

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