世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第350回 アベ・ショックが始まった(前編)

社会・2019/12/24 06:00 / 掲載号 2020年1月2日号
世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第350回 アベ・ショックが始まった(前編)

安倍晋三

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 2019年10月1日に消費税率が10%へ引き上げられた。消費税の政策目的は「国民の消費を減らす」以外には何もない。何しろ、消費税とは消費に対する罰金なのだ。

 炭素税は、企業に二酸化炭素を排出「させない」ために課される罰金だ。たばこ税は、人々がたばこを吸う本数を「減らす」ことが目的の税金である。ならば、消費税は? 消費税は、国民に消費を「させない」ことが政策目的になってしまうのである。

 というわけで、消費税を増税すると、国民は「罰金が増えた」ということで消費を減らす。そんなことは初めから分かっているため、政府は消費税増税後の消費縮小を抑えるために、幼児教育・保育の無償化や、キャッシュレス決済のポイント還元など、各種の需要縮小対策を打った。

 そんな、消費が減ることが分かっているならば、初めから消費税を増税しなければいいではないか。との感想を、すべての読者が抱いたのだろうが、何しろ我が国は「財務省主権国家」である。財務省が切望する消費税率引き上げは、すべてに優先する。とはいえ、さすがにこれ以上消費が減るのはまずいので、安倍政権は「緊縮財政」という国是の下、幼児教育・保育無償化やポイント還元で「対策を打ったふりをした」のである。

 もっとも、無駄な足掻きだったようだ。

 総務省が’19年12月6日に発表した10月の家計調査によると、全世帯(単身世帯を除く2人以上の世帯)の実質消費支出は、対前年比で5.1%減! 何と、’14年4月の増税時(対前年比4.6%減)を上回る落ち込みになってしまった。

 消費の急激な縮小を受け、総務省は、
「台風の影響もあるため、駆け込み需要の反動減との区別が難しい。この1カ月の結果だけで消費税率引き上げの影響の大きさは判断できない」

 とコメントを発表。いよいよ、大東亜戦争末期の大本営になってきた。台風のせいというならば、’18年も巨大台風が立て続けに日本列島を襲ったが、その影響で消費が大きく減ったとでもいうのだろうか(減っていない)。

 すでに「アベ・ショック」が始まったことが明らかであるにもかかわらず、政府や与党自民党は「いや、景気はいい。10月の消費悪化は、台風のせいだ」と、相変わらずお天気のせいにして、現実を見ようとしない。

 ’00年以降の実質消費について、変動率ではなく指数そのものをグラフ化した。

 21世紀に入って以降、日本の実質消費は漸減が続いていた。消費税という「消費に対する罰金」が存在していた以上、当たり前なのだが、実質消費指数は’14年3月に跳ね上がり(駆け込み消費)、’14年4月に大きく落ち込んだ。

 その後、政府は「V字回復する」と寝言を言っていたが、我々は「L字型低迷に陥る」と警鐘を鳴らした。どちらが正しかったか、分からない人は目玉を取り換えるべきだ。

 そして、’19年9月に、やはり多少の駆け込み消費があり、10月に駆け込み消費分を上回る落ち込みになった(’20年7月1日に、ポイント還元がなくなり、再増税になってしまうため、再度、同じ軌跡を描くと予想)。

 注目点は、’19年10月の実質消費指数の水準が、’14年4月を「下回ってしまった!」という点である。’19年10月、我々は’14年4月以上に、実質的に消費できなかったのだ。より分かりやすく書くと、
「’14年4月よりも、財やサービスを買う量を減らした」
 こととなる。

 ちなみに、消費税を増税すると、毎度毎度、実質賃金が大きく下がる。何しろ、消費増税は強制的な物価の引き上げになる。物価が上昇しても、給料は十分に上がらないため、実質賃金は下がる。

 ところが、今回の増税では、10月の実質賃金が対前年比+0.1%になるという珍現象が見られた。もちろん、これには理由がある。

 実質賃金は、名目賃金の変動からインフレ率(物価上昇率)の影響を排除することで求める。ここでいうインフレ率とは、具体的には「持家の帰属家賃を除く総合消費者物価指数」のことだ。

 ’19年のインフレ率は(持家の帰属家賃を除く総合)は、対前年比+0.3%。’14年4月には、同インフレ率がいきなり4月に+4%を超える上昇になったのと比べると、随分と穏やかな数値である。

 ’14年4月と、’19年10月の違いは、何に起因するのだろうか。もちろん、冒頭の幼児教育・保育の無償化の影響である。

 10月から、幼稚園、保育所、認定こども園などを利用する3歳から5歳までのすべての子供たちの利用料が無料になった。さらに、住民税非課税世帯は、0歳から2歳までの利用料も無料。

 無料とはいっても、政府が代わりに支払っているのだが、いずれにせよ該当世代の子供たちを持つ世帯は、これまで数万円という単位で毎月、必ず支払っていた利用料が「ゼロ」になったのである。結果、消費者物価の統計でいえば、「教育費」が下がり、インフレ率の上昇を抑制したのだ。

 というわけで’19年10月のインフレ率は、「持家の帰属家賃を除く総合」でわずか+0.3%の上昇で済んだ。名目賃金の上昇率を、インフレ率が下回り、実質賃金が+0.1%となったのだ。

 もっとも、上記はあくまで幼児、乳児を持つ世帯の話で、そうではない世帯は無関係である。普通に実質賃金が下落していることだろう。

 いずれにせよ、筆者が以前から警告していた「アベ・ショック」が始まった。筆者は、政府の増税対策があるため、本格的なアベ・ショックは’20年7月(キャッシュレス決済のポイント還元が終わり、再増税)以降になると予想というか「期待」していたのだが、甘かったようだ。

 現在の筆者にとっては、正直、アベ・ショックが始まったことよりも、政府が「危機を見ないふりをしている」ことに恐怖を感じている。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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