葉加瀬マイ 2018年11月29日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第262回 人手不足と技術大国

掲載日時 2018年03月19日 14時00分 [政治] / 掲載号 2018年3月22日号

 財務省が2018年1月末にかけ「人手不足の現状及び対応策」という調査を行った。1年前よりも人手不足が深刻になったと回答した企業が31%。1年前と同程度の人手不足であると回答した企業が22%。人手不足感を覚えている企業の総計は、全体の71%にも及んだ。
 1年前の調査では、人手不足を感じている企業が67%であった。年月が経過するに連れ、人手不足が拡散している現実が理解できる。ちなみに、人手不足の要因については、「採用が進まない」が59%と、圧倒的な多数を占めた。現在の日本では、人手不足であるにも関わらず、ヒトの雇用が不可能になりつつあるのだ。

 日本の人手不足(厳密には「人手不足の深刻化」)は、今後、少なくとも20年は続く。理由は、そもそも人手不足の原因が少子高齢化による生産年齢人口比率の低下であるためだ。直近の生産年齢人口対総人口比率は、60.1%。まもなく、60%を切るだろう。
 少子高齢化が終わっていない以上、人手不足の「深刻化」が続く。理由は、現時点で生まれる子供の数が激増したとしても、20年間は働かないためだ。毎年、毎年、
 「昨年の方が楽だった」
 という状況が継続するのが、今後の日本なのである。

 今回の人手不足、つまりは高度成長期以来の人手不足を乗り切るためには、生産性向上は当然だが、バリューチェーンの各段階、競合、あるいは地域社会が一体となって解決に当たらなければならないというのが、筆者の結論である。
 例えば、競合同士で“人手”の確保を「相談して合意する」形の談合は、別に違法ではない。本来、競合同士で“人手”の奪い合いをするのが、市場原理的には正しいのだろう。とはいえ、深刻化する一方の人手不足は、人手確保について競合が協働せざるを得ない状況に追い込む。さらに、個別企業ではどうにもならない人手不足問題の解決について、地域全体の取り組みも必須となる。
 今後、少なくとも20年は続く人手不足の時代、日本企業の取引先との関係、競合との関係、さらには地域コミュニティーとの関係など、さまざまな「関係」に変化をもたらすことになると確信している。

 逆に競合同士で「ヒトの奪い合い」に突入した場合、人件費がひたすら高騰していくことになる。一方で、人手不足が埋まらないという状況にならざるを得ない。
 あるいは、
 「外国人労働者」
 「労働規制の緩和で(裁量労働制の拡大など)」
 といった形で、日本社会や日本国民に負担が「未来永劫」生じることになってしまうだろう。結局のところ、人手不足解消には二つしか方法がない。

 (1) 新たにヒトを雇う
 (2) 生産性向上

 (1)について、現在、人手不足で先行しているのは、東京のような都市部ではなく、むしろ地方である。政府は貧困化が進む東京圏から、地方への生産者の移動を促すインフラ整備、税制を政策として打ち出すべきだ。
 外国人労働者については、「文化伝統」「外国人犯罪増加」といった話を抜きにしても、
 ○言語的コミュニケーションの問題、安全性の低下
 ○さまざまな付随的業務発生によるコスト増
 ○技能実習生や留学生は期限付き雇用となる(戦力に育ったところで帰国する)
 ○中長期的に日本社会にリスクが生じる(=移民政策のトリレンマ)
 ○生産性向上のための投資が進まず、中長期的に人手不足解消を継続できるとは限らない
 ○日本政府の「政策」に依存する
 ○送り出し国(外国政府)側の「政策」に依存する
 ○技能実習生失踪などのトラブルの発生と対応
 ○日本人の若年層への技能継承は不可能
 ○地政学的リスクの問題
 といったさまざまな問題がある。この種の問題に対する対応策を、移民推進派から聞いたことはない。

 (2)の生産性向上であるが、直近で「モノになる」ことが確実だと思える技術は、
 ○サイバーダイン社HALに代表されるパワードスーツ
 ○ドローン測量、ICT建機などのi-Construction(特に、フルコントロールの自動施工)
 ○RFIDを用いた完全自動レジ(可能ならば、塗布型半導体のRFIDで)
 ○隊列走行
 などになる。上記の技術は今年中、遅くても5年以内には「大々的に普及」という段階に至るだろう。ドローン測量やICT建機は、すでに普及が進みつつある。それでは、隊列走行ではなく、単独の自動運転はどうだろうか。
 日産とDeNAは、自動運転タクシーサービスである「Easy Ride(イージーライド)」の試験走行を実施すると報じられた。3月5日から18日にかけ、横浜・みなとみらい地区の公道約4.5キロの限定コースで、自動運転タクシーの実証実験を行うという。隊列走行に続き、自動運転タクシーもまた公道実験が始まるわけだ。
 もちろん、東京の狭隘な路地を自動運転タクシーが走り回る日は、相当、先にはなると思われる。とはいえ、自動運転が「使えるところ」もあるのだ。タクシードライバーが極度に不足し、かつ交通量が少ない地方では、自動運転タクシーは「需要はあるが、供給能力が足りない」インフレギャップを解消するソリューションになる可能性がある。

 ともあれ、国家全体で見ても、企業単体で見ても、
 「人手不足を完璧に解決してくれる!」
 といった、完全なるソリューションは存在しないことを理解しなければならない。いずれにせよ、中途半端で、不完全で、それでも試行錯誤しながら前に進むしかないのだ。

 少子高齢化による生産年齢人口比率低下を受けた日本の人手不足は、新たな技術に対する需要を膨張させている。技術的なブレイクスルーは、まさにこの種の需要膨張期に起きる。日本は今回の人手不足を受け、再び世界の技術をリードできる可能性すらあるのだ。
 そして、わが国の技術大国への道を破壊する最悪の政策が、もちろん「移民受入」になる。現在の日本にとって、移民受入は、
 ○将来世代に「移民国家日本」という、異なる日本を引き渡すことになることに加え、
 ○技術大国化への道を破壊する
 からこそ、絶対に選択肢にはならない政策なのである。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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