菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第258回 日本とイギリスの移民問題

掲載日時 2018年02月18日 14時00分 [政治] / 掲載号 2018年2月22日号

 改めて、日本の高度成長期の経済成長率が、同じく高度成長していた欧米の「2倍」だったという事実は、日本人の資質、才能、勤勉性、優秀性などでは全く説明できない。日本の高度成長(厳密には欧米の2倍の経済成長率)は、需要が供給能力を上回り続ける高圧経済の下で、「移民」により人手不足をカバーできなかったからこそ、達成されたのである。
 何しろ、移民が入って来ない以上、溢れる需要を「今いる国民」の生産で満たすしかない。当然ながら、社会全体に「生産性向上」の圧力が掛かり、実際に公共投資、設備投資、人材投資、技術投資という「資本主義の基本」である4投資が拡大し、需要が肥大化。肥大化した需要を埋めるために、さらなる生産性向上の投資が行われる循環構造で、日本は世界第2位の経済大国に成長した。

 そもそも、
 「日本の高度成長は、高圧経済下で移民を入れなかったからこそ達成された」
 を否定する人は、50年代から55年代に至る西ドイツの成長率の「失速」(それでも欧米平均並みの成長率に下がっただけだが)をいかに説明するのだろうか。西ドイツの国民の能力とやらが、いきなり落ち込んだせいなのか。
 違う。西ドイツは50年代中頃から「移民」を外国人労働者として受け入れ始め、生産性向上のペースが鈍った。ただ、それだけの話である。

 移民を受け入れないことで、生産性が高まる。実は、昨今のイギリスが証明してくれた。イギリスは'16年6月23日にEU(欧州連合)からの離脱(いわゆる「ブレグジット」)を国民投票で決めた。それ以降、イギリスから移民が大流出。'17年6月までの1年間で、12万人以上がイギリスを去った。また、EU市民の中で、イギリスに移り住む純移民の数は43%の減少。特に「A8」と呼ばれる東欧8カ国の市民に限定すると、減少率は8割を超えた。
 結果的に、イギリスでは人手不足が深刻化し始めた。そして、人手不足を「技術投資」などの生産性向上で乗り切ろうとする動きが始まる。'17年7〜9月期のイギリスの労働生産性は、対前期比で1%近くも上昇した。グローバリズムに背を向け、移民制限(事実上の)により人手不足が深刻化したからこそ、イギリス国民の生産性は向上。本連載で繰り返している通り、生産性向上こそが実質賃金の上昇をもたらす。

 イギリスにおけるグローバリズムの旗手たるエコノミスト誌も、
 「労働力の減少は、英国に良い効果をもたらすとの主張もある。近年、外国人労働者であふれてしまったことが、低賃金の職種において賃上げの抑制要因になっていたと考えられるからだ。移民労働者が減れば、企業も地元の低熟練労働者を訓練すべく、技術投資を増やさざるを得ないだろう。そうなれば、現在低水準にある英国の労働生産性も改善すると考えられる('18年1月26日『英で移民流出加速 企業は頭抱える』より)」
 と、書かざるを得ない状況に至ったのである。

 さて、翻って日本。'18年1月26日に厚生労働省が'17年10月時点の外国人雇用者数を発表したのだが、何と127万人超。'16年10月と比較し、18%も増えた。日本の憲政史上、安倍政権ほど「移民」を受け入れた政権は過去に例がない。野田政権期と比較し、すでに外国人雇用や数は60万人(!)も増えた。ほぼ、倍増である。
 厚生労働省は、増加の要因として、
●政府が推進している高度外国人材や留学生の受入れが進んでいること
●雇用情勢の改善が着実に進み、「永住者」や「日本人の配偶者」等の身分に基づく在留資格の方々の就労が増えていること
●技能実習制度の活用が進んでいること
 を挙げているが、根本的な原因は異なる。実質賃金の低迷が日本人の「働くべき人たち」を労働市場に導いていないのだ。

 何しろ、わが国には「高齢者世帯」「母子世帯」「障害者世帯」「傷病者世帯」以外の「その他の世帯」の生活保護受給が27万世帯もいる。生産年齢人口「男子」の生活保護受給者が労働市場に戻るだけで、少なくとも'17年の外国人労働者の増加分はカバーできたはずだ。
 さらに、「子供・若者白書」によると、15歳から34歳までの「非労働力人口のうち、家事も通学もしていない者」、いわゆるNEETの数は、57万人('16年時点)。日本では、いまだに「働くべき人が働いていない」がゆえに、人手不足という現実があるのだ。むろん、主たる理由は少子高齢化による生産年齢人口比率の低下なのだが。

 外国人労働者について伸び率でみると、最も高いのがベトナム人(対前年比39.7%増)で、2位がネパール人(同31%増)であった。中国人は、もちろん人数は最も多いが、増加率は対前年比8%。すでに、日本は中国人民の労働者にとって賃金的に「魅力的な国」ではなくなりつつあるのかもしれない。大変むなしいことに、コンビニ業界や運送業界、土木建設業界を先頭に、人手不足を補うための「生産性向上」のための技術開発、設備投資は進みつつあるのだ。
 ちなみに、日本で増えている外国人労働者は「技能実習生」「留学生」など、将来的には「帰国する人々」ばかりである。彼らは長期的な企業の戦力にはなりえない。
 未来について真摯に考えるならば、わが国の人手不足対処は、短期的に技能実習生、留学生でしのいだとしても、将来の生産性向上のために「今」技術投資、設備投資、公共投資、人材投資という4投資を拡大しなければならないことが理解できるはずだ。

 人手不足を、生産性向上のための投資でカバーする。まさに、これこそがわが国に高度成長をもたらした「経済成長の黄金循環」なのである。この「現実」に、日本国民がいかに早く気が付くか。わが国の運命は、まさにその一点にかかっているのである。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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