菜乃花 2018年10月04日号

天下の猛妻 -秘録・総理夫人伝- 細川護煕・佳代子夫人(上)

掲載日時 2018年03月26日 08時00分 [政治] / 掲載号 2018年3月29日号

 戦後の総理大臣の“風景”を一変させてしまったのが、それまでの長き自民党一党支配に終止符を打ち、自民党「徳川第15代将軍」に擬せられた宮澤喜一退陣のあとを受けて首相になった細川護煕、そしてその妻・佳代子であった。

 平成5年(1993年)8月、この国の戦後政治は一大“エポック・メーキング”を迎えた。ときの新生党代表幹事だった「政界仕掛人」小沢一郎(現・自由党代表)の“大仕掛け”で、日本新党の細川護煕を首班とする社会党、公明党など8党派による「非自民」連立政権が誕生、ここに「保守VS革新」の自民党と社会党による「55年体制」が崩壊し、新しい“試み”の中で戦後政治が再出発を迎えたということだった。
 政局観の鋭い小沢は、日本新党が「非自民」連立政権実現へのカギ、すなわちキャスティングボートを握っているといち早く見抜き、その党首に“総理のイス”のニンジンをぶら下げて見せ、その思惑どおり細川がこれに乗ったということでもあった。
 ときに、参院議員1期、熊本県知事経験はあったものの、細川は衆院当選わずか1回、それも当選からたった数カ月の55歳。田中角栄の54歳に次ぐ、当時、戦後2番目の若い首相の誕生だったのである。

 この細川首相の登場は、総理大臣のみならず、政治そのもののスタイルも一変させた。それまで首相官邸で40年近く歴代の官房長官に仕えた元官邸職員の石川明枝女史の、おおむね次のような驚きの声がそれを物語っている。
 「まず、非自民内閣の閣僚に社会党出身者がいることが、官邸の劇的変化の象徴でした。また、細川首相は総理執務室の壁をベージュ色に張り替えたり、ソファも新しくして、それまでの暗く重いイメージを一変させてしまった」(『サンデー毎日』平成17年9月4日号)

 また、それまでの首相の記者会見はイスに座ったままのそれだったが、細川は立ってプロンプターを使い、国民に語りかけるスタイルに一新させている。そのうえ、執務室から記者会見場に向かうときでも、それまでの首相は渡り廊下を使ったが、細川はいったん官邸の外に出、わざわざ官邸の正面玄関から前庭を歩いて会見場に足を運び、これをテレビカメラに撮らせるなども“工夫”していたものである。
 一方、その妻・佳代子も、パフォーマーぶりを発揮した。夫妻揃っての初訪米でもあったクリントン大統領との首脳会談から帰国の際も、飛行機のタラップを降りるとき、下で待ち構えるカメラマンになんともこれ見よがしに、細川が佳代子にさり気なくマフラーを巻いてやっている姿を撮らせては、いかにもラブラブの“夫唱婦随”を見せつけている。

 いまは、安倍晋三夫妻がタラップの昇降でごく自然に手を握り合ってを見せつけているが、細川以前の首相は、そんなコトは恥ずかしくてとてもできなかったものである。日本新党当時の担当記者の、こんな証言が残っている。
 「細川が日本新党を旗揚げして以後、本人は多忙ゆえ熊本の選挙区にはなかなか帰れなかった。選挙区で、夫の“名代”を務めたのが佳代子夫人だった。平成5年の細川の初の衆院選では、一人で取り仕切っていた感があった。細川のポスターに、夫と並んで同じ大きさの自らの顔写真を刷り込むといった“奇策”をやって選挙民を驚かせた。また、細川が首相になったあとも、自ら日本新党PRの記者会見を開くことが多々あった。歴代首相夫人のなかで、この回数は佳代子夫人がダントツだったのです」

 その細川夫妻は、ともに上智大学の出身で、細川がゴルフ部の部長、佳代子もそのゴルフ部に所属していたことで知り合った。学生時代の細川のゴルフはハンデ6となかなかの腕前だったが、佳代子のほうも関東女子ゴルフ選手権で優勝するなどの腕前。
 「学生時代の佳代子夫人は女優の山本陽子似のキュートな美人で、この頃から細川は夫人にゾッコンだったそうです」(前出・日本新党元担当記者)

 その後、細川は大学卒業後、朝日新聞社に入社。鹿児島支局を皮切りに最後は社会部に配属され、都合5年半の記者生活を送ることになる。
 ちなみに、社会部時代には「東大紛争」「金嬉老事件」などを取材、後者では籠城する金嬉老に果敢にも単独インタビューを試み、金からションベンをひっかけられて追い返され、失敗したというエピソードがある。

 結婚も簡単にはいかなかった。
 「細川は、『ぼくは将来、政治家になるつもりだ。君の手助けが欲しい。君は、なんでもやれる“成長株”なんだ』と言った。ところが、このとき佳代子夫人の返事はノーだった。『将来のことをお約束することはできません』と、ピシャリだったと言います」(同)
 細川は肥後・熊本の「殿様」の末裔、“原因”は家柄の違いだった。=敬称略=
(この項つづく)

小林吉弥(こばやしきちや)
早大卒。永田町取材48年余のベテラン政治評論家。抜群の政局・選挙分析で定評がある。著書に『決定版 田中角栄名語録』(セブン&アイ出版)、『21世紀リーダー候補の真贋』(読売新聞社)など多数。

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