菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第280回 安藤提言

掲載日時 2018年07月27日 15時00分 [政治] / 掲載号 2018年8月2日号

 6月に閣議決定された今後の財政方針「骨太の方針2018」は、
 ●2019年10月に、消費税率を予定通り10%に引き上げる。
 ●投資系支出まで制限するプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化目標は、達成時期を2025年に先送りした上で残す。
 ●移民受入の新たな在留資格を作る。
 と、まさに日本国民を貧困化させる政策のオンパレードであった。

 もっとも骨太の方針閣議決定を受け、絶望に浸るべきかといえば、必ずしもそうではない。「国民経済」について正しく理解をした勢力が、すでに反撃に出ている。本連載(229回)でも取り上げた『日本の未来を考える勉強会』の議員たちである。
 '18年7月6日、自民党の『日本の未来を考える勉強会』(呼びかけ人代表・安藤裕衆院議員)のメンバーが、首相官邸で安倍晋三首相と面会。'19年10月に予定される消費税率の10%への引き上げに向け、'19年度予算の規模を前年度比3.2%以上拡大するよう求めるなど、デフレ脱却に向けた提言書を手渡した。正式名称は『デフレ完全脱却による財政再建に向けた「平成31年度予算編成」についての提言』であるが、(長いので)呼びかけ人にちなみ、今後は「安藤提言」と呼ぶことにする。
 驚くべきことに、安藤提言を受けた首相官邸は、ホームページに「動画」付きで、申し入れの詳細を掲載した。一般議員の提言を首相官邸が広報するなど、過去に聞いたことがない。

 6月17日に公表された土木学会の報告によると、首都直下型地震、南海トラフ巨大地震により、わが国は20年間で2000兆円を超す生産資産とGDPを喪失する可能性がある。同報告書は自民党の国会議員たちに共有され、危機感を抱いた政治家たちの間で、財政出動の空気が醸成されている。
 土木学会の報告書、頻発する地震、広範囲の「数十年に一度」の豪雨災害、災害による死者続出、失われる国民の家屋・財産、そして「普通の生活」、この現実を目にしながら、安藤提言に背を向け、財政拡大に踏み切らないならば、もはや「政治」ではない。

 7月初頭の西日本豪雨災害「平成30年7月豪雨」の被害は拡大を続け、死者200人を上回り、平成最悪の豪雨災害になってしまった。
 生産面への被害も発生しており、自動車企業を中心に操業停止となる企業が増えている。被災地で工場が止まると、そこから供給を受けている企業にも影響が生じ、バリューチェーンを「生産不能」が伝播していくことになる。この状況でも、防災インフラ整備、交通インフラ整備などの公共投資、財政拡大に背を向けるのか?

 背を向けてはならない、というのが安藤提言なのである。安藤提言の骨子は以下になる。
 ●2019年度問題(消費増税、残業規制、東京五輪の特需終了)を乗り越えるための10兆円規模の政府需要拡大策
 ●政府試算の「経済成長ケース」を達成するために、毎年3.2%(約2.4兆円)の「当初予算」における継続的な予算拡大
 ●消費税増税対策
 ・軽減税率の対象拡大―軽減税率は8%ではなく5%とする
 ・1単位あたり100万円以下のものはすべて軽減税率とする
 ・個人利用のものはすべて軽減税率適用

 軽減税率を利用し、事実上の消費減税。加えて、'19年度問題を乗り越えるために、「一時的」な需要拡大(10兆円規模)。加えて、毎年3.2%の「当初予算」における予算の拡大。そもそも、日本政府が想定する「経済成長コース」が3.2%のGDP成長となっている以上、政府支出も3.2%ずつ拡大させるべきである。
 前記3つが実現すれば、恐らく3年ほどで日本はついにデフレからの完全なる脱却を果たすことになる。

 さらに、骨太の方針2018に、
 「中長期の視点に立ち、将来の成長の基盤となり豊かな国民生活を実現する波及効果の大きな投資プロジェクトを計画的に実施する」
 と、明記されていることを受け、安藤提言ではさまざまな投資プロジェクトが提案された。ILC(国際リニアコライダー)の誘致、北陸新幹線の早期「関空接続」の事業決定、日本人技術者・技能労務者育成による賃金大幅引き上げ、高速道路のミッシングリンク解消、全国の豪雨対策のための長期予算確保、防衛装備の拡充や自衛隊の処遇改善など、日本にとって「必須」のプロジェクトばかりだ。
 交通インフラを整備し、科学技術に投資し、人手不足は生産性向上と人件費引き上げにより解消するというわけで、誠に理にかなっている。

 ちなみに、安藤提言が書かれたのは、7月頭の西日本豪雨災害の「前」である。この種の「やって当たり前のプロジェクト」に、政府が継続的に支出をすれば、企業の設備投資、技術投資が回復し、資本装備率も上昇。生産性向上により実質賃金が上がり、さらなる需要拡大をもたらす経済成長の「黄金循環」が始まる。しかも、安藤提言が優れているのは、閣議決定された「骨太の方針2018」には全く反していないという点だ。
 消費税率は10%に引き上げる(ただし、軽減税率で実質的な減税とする)。

 当初の10兆円規模の財政拡大にしても、何しろ骨太の方針に、
 「2019年10月1日における消費税率の引上げに向けては、消費税率引上げによる駆け込み需要・反動減といった経済の振れをコントロールし、需要変動の平準化、ひいては景気変動の安定化に万全を期す」
 と書かれている以上、全く問題がない。むしろ、やらない方が骨太の方針に逆らうことになる。
 さらに、各種の投資も骨太の方針に沿っている以上、安易に否定することは不可能だ。

 安藤提言を採用するか否か。これが、安倍政権にとっての最終的な試金石だ。
 採用しなかった場合、安倍晋三内閣総理大臣は、
 「日本の憲政史上、最も国民を貧しくし(=実質賃金の低下)、最も消費を減らした(=実質消費の縮小)亡国の内閣総理大臣」
 として、歴史に名を残すことになる。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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