森咲智美 2018年11月22日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第269回 緊縮財政プロパガンダ

掲載日時 2018年05月08日 08時00分 [政治] / 掲載号 2018年5月10・17日合併号

 かつて、1999年に自著「転換期の日本経済」(岩波書店)において、
 「ともかく財政赤字を抑制するためには数字の上でどのようなことがなされなければならないか、という議論が先行してきた。(中略)社会保障を抑制しないと日本経済が『破局』をむかえるというプロパガンダが使われてきた」
 と、実に真っ当な論理で「緊縮財政プロパガンダ」を批判した吉川洋・立正大学教授は、今や緊縮財政プロパガンダの先頭に立っている。吉川教授が緊縮財政派に「転向」したのは、'01年に経済財政諮問会議の議員になって以降である。
 学者が政権(あるいは「財務省」)に取り込まれ、それまでの持論とは真逆の主張を展開し始める。吉川教授ほどの「典型例」は、さすがの筆者も他には知らない。

 過去の吉川教授が批判した緊縮財政プロパガンダは、今も続いている。具体的には、
 「(消費税増税を含む)緊縮財政やむなし、と、国民に思わせる」
 「緊縮財政不要派(財政拡大派)を貶める」
 の2つを世論に浸透させる形で、プロパガンダが展開されている。

 例えば、政治家や学者、さらには「経団連会長」「商工会議所会頭」といった財政や経済の素人に「財政破綻」といった情報を「ご説明」し(本当に「ご説明」と呼ぶ)、オープンなチャネルで発言させるのだ。
 「2019年10月に税率を10%にすることは政権の公約であり、国際社会との約束でもある。絶対に行うべきだ」('17年7月10日 経団連 榊原定征会長)
 「(消費税率について)絶対に上げるべきだ」('18年3月14日 日本商工会議所 三村明夫会頭)
 一度、榊原会長や三村会頭のように発言してしまうと、もはや後には引けない。

 日本国債が100%日本円建てであり、政府が子会社の日銀に国債を買い取らせることが可能である以上、わが国の財政破綻はあり得ない。さらに、緊縮財政が日本経済のデフレ化を長期化させたことは「単なる事実」であり、そこに価値観が入る要素はない。
 それにも関わらず、財政破綻論や緊縮財政推進論の声が絶えない。理由の一つは、彼らの多くが、「過去に財政破綻論、あるいは緊縮財政推進を発言した」ためなのだ。すなわち、「共犯者のプロパガンダ」である。
 一度、財政破綻論や緊縮財政推進を表明してしまうと、もはや前言を撤回することはできない。人間は「自分が間違っていた」ことを認めることが困難な動物なのである。

 日本は財政破綻しない、という事実を突きつけられたとしても、彼らは懸命に、
 「財政破綻する理由」
 「消費税を増税しなければならない理由」
 を探し続け、財務省の共犯者と化す。
 挙句の果てに、「日本は財政破綻しない」「消費増税はデフレ深刻化」といった事実を語る論客を貶めるべく、さまざまなプロパガンダを始めるのだ。一例が「ストローマン(藁人形)のプロパガンダ」である。ストローマンのプロパガンダとは、敵対する論客の発言をでっち上げ、それを攻撃するプロパガンダ手法になる。

 例えば、「三橋はTPPはアメリカの陰謀だと言っていたが…」だ。筆者はTPPについて、どこぞの“陰謀”などと表現したことは一度もない。そもそも、TPPに関するアメリカの対日要望は、USTRのホームページに堂々と載っており、“陰”謀でも何でもないのだ。
 筆者がTPPに反対している理由は、協定の「中身」が日本国民を害することが明らかであるためだ。TPPの中身の議論では勝てない勢力が、「TPP陰謀論者は…」などと藁人形をでっち上げ、それを攻撃。TPP反対論者全体を貶めようと図るのが、ストローマン・プロパガンダの典型例だ。

 財政破綻論でいえば4月15日、東洋経済は〈希薄化する「財政再建」に漂う2020年後の不安〉というタイトルで、経済ジャーナリスト岩崎博充氏のコラムを掲載した。岩崎氏はコラムの中で、
 「(前略)財務省を敵視しているリフレ派の中には、このPB黒字化の制限こそが日本のデフレ脱却を妨げている、と主張する人もいるが、無制限な財政歳出がどんな結果をもたらすのかを説明しないで、一方的な財政歳出拡大論を推し進めるのも無理がある。(後略)」
 と、書いていた。

 そもそも、「財務省を敵視している勢力」で「PB黒字化の制限こそが日本のデフレ脱却を妨げている、と主張する人」(つまりは筆者ら)に対し「リフレ派」と呼称している時点で、いわゆる「レッテル貼り」プロパガンダだ。筆者は「リフレ派」などと自称したことは一度もない。しかも、岩田規久男前日銀副総裁をはじめとするリフレ派の「デフレは貨幣現象」という誤った認識を、過去5年間、批判し続けた。
 それはともかく、PB黒字化目標反対派に対し、
 「無制限な財政歳出がどんな結果をもたらすのかを説明しないで、一方的な財政歳出拡大論を推し進めるのも無理がある」
 と、藁人形を作成し、批判する。
 一体全体、いつ「財務省を敵視する勢力」が「無制限な歳出拡大」などと主張したというのだろうか。財政破綻論や緊縮財政に反対する論客は、基本的には、
 「日本がデフレ脱却するまで、財政により需要を創出しなければならない」
 と、当たり前の主張を「数値データ」に基づき展開しているに過ぎない。

 筆者にしても、政権がいきなり「今年は100兆円、予算を増やす」などと言い出した場合は、反対する。さすがに供給能力が極度の不足となり、インフレ率が激増するに決まっている。
 経済を継続的な成長に導くインフレ、具体的には雇用を完全雇用とし、名目GDPや税収を着実に増やすインフレ率は「目指すべき」である。だからと言って「ならば、財政を無制限に増やすべき」とはならない。経済政策のポイントは「適切なバランス」であるにも関わらず、それを無視した藁人形をでっち上げる。そして、藁人形を「それらしく」批判することで、財政拡大を主張する勢力全体を貶めようとする。卑劣極まりない。
 この手のプロパガンダを「読み取る能力」を国民が身に着けない限り、わが国の繁栄は遠のくばかりだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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