葉加瀬マイ 2018年11月29日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第255回 危険な上下水道の民営化

掲載日時 2018年01月28日 15時00分 [政治] / 掲載号 2018年2月1日号

 レント・シーキングという言葉をご存じだろうか。レントとは、本来は「地代」を意味する。土地を所有することで自らは働かず、他の誰かに耕作させ、所得を得られるのがレント(地代)だ。この種のレントを政治的に探し求める、あるいは「ルールを作り出す」行為こそが、レント・シーキングになる。

 ノーベル経済学者のジョセフ・スティグリッツ教授は、著作『世界の99%を貧困にする経済』(徳間書店)において、
 「アメリカの政治制度は上層の人々に過剰な力を与えてしまっており、彼らはその力で所得再配分の範囲を限定しただけでなく、ゲームのルールを自分たちに都合よく作り上げ、公共セクターから大きな“贈り物”をしぼり取ったからだ。経済学者はこのような活動を“レント・シーキング”と呼ぶ」
 と、レント・シーキングについて説明している。

 公共サービスを「民営化」し、新規参入してもうける。この種のレント・シーキングが、現在の日本でも本格的に始まりつつある。
 日本政府は、地方自治体が運営する上下水道などの公共インフラの民間への売却を促すためとのお題目で、PFI(民間資金を活用した社会資本整備)法を改正しようとしている。上下水道や公共施設の運営権を売却する際に、何と各地方議会の議決は不要となる。端から「公共インフラを民間に売る」という結論が決まっており、邪魔な存在である議会の介在を排除するわけだ。
 当たり前だが、各地方自治体の公共サービスのあり方は、各地方議会が決めるべき問題である。理由は、議会の議員たちが住民の投票により選ばれ、主権の束を背負った存在であるためだ。それが「自治」というものである。しかも、一旦、上下水道を民間企業に売却してしまうと、後に「失敗」が明らかになったとしても、そう簡単に元に戻すことはできない。後述するが、すでに先進国などで上下水道の再公営化が始まっているが、費用は「住民持ち」になる。

 政府は昨年、PFI推進の行動計画を改定し、インフラ売却などの合計額を2022年度までの10年間で21兆円とする目標を掲げた。つまりは21兆円の「国民の資産」が売り払われ、外資系企業を含む特定企業や投資家の「利益の源泉」と化すことになる。アメリカでは、すでに相当に進んでしまったレント・シーキングの大波が、今、日本国に押し寄せているのだ。
 ゲームのルール(政府の規制)を自分たちに都合のいいように作り、公共セクターから贈り物を搾り取る。そのために、政府の諮問会議(規制改革推進会議など)に経営者や投資家が「民間議員」として乗り込み、国民の代表である国会議員をないがしろにしたまま政策を推進する。最近の安倍政権の得意技だ。

 そもそも、「国民の安全や豊かさ」を追求するためには、コストがかかるものなのだ。そこに「利益」という発想を持ち込んではならない。日本の水道や下水道サービスの品質がすばらしいのは、「利益」ではなく「国民の生活」を求めて、コストが費やされてきたためなのだ。そこに「利益」を追求する民間事業者を参入させるという。いかなる屁理屈をこねようとも「利益」を追求する限り、公共サービスの品質は下がるか、もしくはサービス料金が上がらざるを得ない。
 というよりも、実際にその種の事例は世界に満ち溢れており、世界的な趨勢は、上下水道サービスの「再公営化」なのである。特に、アメリカ、フランス、ドイツなどの先進国において、再公営化が始まっている。パリやベルリンといった大都市の水道も、民営化されていたのが再公営化された。

 再公営化の理由はさまざまだが、とりあえず上下水道民営化の「謳い文句」の嘘が明らかになったことが決定的だった。具体的には、
 ●民営化により管理運営が劣悪になった
 ●投資の不足
 ●事業コストや水道料金をめぐる対立
 ●水道料金の高騰
 ●民間事業者に対する監督が困難
 ●財務の透明性欠如
 ●人員削減
 ●劣悪なサービス品質
 などになる。世界各国で失敗が明らかになっているにも関わらず、日本政府は上下水道の民営化を推し進めようとしている。

 結局、安倍政権が「日本国民」のためではなく、一部レントシーカー(レントを探し求める者たち)のための政権であることが、上下水道民営化の動きを見ていると分かるのだ。
 安倍政権に限らない。東京都にしても、下水道施設の運営権の民間事業者への売却(コンセッション)を検討すると報じられている。日本で最も財政的に余裕がある東京都までもが、「コスト削減」を旗印に、下水道を民間に売却しようとしている。つまりは、上下水道民営化は緊縮財政の一環でもあるのだ。

 ちなみに、浜松市は下水道の一部をコンセッション方式で民営化しており、浜松ウォーターシンフォニーが受注した。浜松ウォーターシンフォニーは、フランスのヴェオリア社、JFEエンジ、オリックス、東急建設・須山建設グループが設立した特別目的会社である。何と、浜松の下水道コンセッションの時点で、「外国資本」が入っているのだ。つまりは「カネの移動の自由」という意味の自由貿易である。
 浜松の事例を見ると緊縮財政、規制緩和(コンセッション)、自由貿易の3つが、シンフォニーを奏でていることが分かる。本連載でも何度か取り上げた、グローバリズムのトリニティ(三位一体)が、見事に成立している。「改革」「民営化」「規制緩和」の多くが、実は日本国民の豊かさには結びつかず、外資系を含めた特定企業の利益拡大にしかならないという現実。
 さらには、過去に上下水道を民営化した国々において、今や再公営化の動きが始まっているという事実。これらを多くの国民が理解しない限り、わが国の公共サービスは売られ続け、スティグリッツ教授の言う「贈り物」をレントシーカーたちに搾り取られ続けることになるだろう。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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