世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第330回 スティファニー・ケルトン教授来日

社会・2019/07/30 06:00 / 掲載号 2019年8月8日号
世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第330回 スティファニー・ケルトン教授来日

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 2019年7月16日、MMT(現代貨幣理論)を主導している代表的な経済学者、ニューヨーク州立大学のスティファニー・ケルトン教授が来日し、京都大学主催で「MMT国際シンポジウム」を開催。翌17日には、筆者のインターネット番組「三橋TV」に出演した。

 ケルトン教授招聘実行委員会の代表である筆者は、インターネットでビデオメッセージを配信し、一般の人々にシンポジウム開催に向けた支援を呼び掛けたのだが、何と数日で2500人を超す人々から、総額2300万円を超す寄付が集まってしまった(目標金額は700万円だったのだが)。MMTが注目を浴びているというよりは、日本国内で何かが動き始めているのをひしひしと感じたものである。

 さて、シンポジウムにおけるケルトン教授の講演は、先方の都合により、残念なことに一般公開はされない(※三橋TVは一般公開)。というわけで、本項でその一部だけでもご紹介できればと思う。ケルトン教授の講演は、実に興味深い“物語”から始まった。

 MMT提唱者の一人、ウォーレン・モズラー氏は、子供たちに屋敷の掃除や芝刈りなど“家事”をするように言いつけた。家事をすることで、モズラー氏の“名刺”を何枚か報酬として支払うという条件付きで。

 ところが、子供たちは家事をしない。理由を問うてみると「パパの名刺なんかもらっても意味がない」とのことであった。そこで、モズラー氏は「屋敷でこのまま豊かな生活をしたいならば、月末に必ず20枚の名刺を自分に支払わなければならない」と宣言。

 すると、子供たちは家事をし始めた。もちろん、名刺を手に入れるためである。

 お分かりだろうか。日本経済でいえば、名刺が“日本円”であり、月末のモズラー氏の名刺回収が“納税”なのである。

 我々が日本円を稼ぐ、右記の例で言えば「日本円を集める」のは、政府に「日本円建て」の納税義務を負っているため。いわゆる、租税貨幣論である。すべての国民の“債務”である納税が日本円建てであるため、我々は日本国内で日本円を使う。

 さらには、我々が納税するためには、まずは政府が支出をしなければならない。モズラー氏は、子供たちが月末に名刺を回収する前に、まずは「名刺を支出する」必要があった。日本政府にしても同じで、現実のオペレーションとして、徴税の“前”に予算が執行されている。徴税の前に、まずは政府支出がある。MMTではスペンディング・ファーストと呼ぶ。

 モズラー氏は、名刺について“無限”に発行することができる。何しろ、印刷するだけだ。日本政府も同じである。徴税や国債発行がなかったとしても、日本政府は“子会社”の日銀に国庫短期証券を持ち込み、日銀当座預金を発行させることができる。というよりも、実際にしている。政府は、実は支出の際に普通に「おカネを発行」しているのだ。この“現実”を「OMF(Overt Monetary Financing、明示的な貨幣供給)」と呼ぶ。

 ちなみに、モズラー氏はともかく、日本政府がなぜ“無限”におカネを発行できるのかといえば、おカネが「債務と債権の記録」であるためだ。債務と債権の記録、貸し借りの関係が成り立てば、おカネは発行される。この“現実”が信用貨幣論だ。

 主流派経済学の商品貨幣論の場合、おカネの量に物理的な限界が生じてしまう。例えば、金貨なり、金本位の兌換貨幣の場合は、「金の量」により全体の量が決まってしまうのだ。となれば、政府のおカネ発行量には限界が生じる。

 ところが、現実にはおカネは商品ではなく貸借関係なのだ。政府が「借ります」と言えば、それだけで貨幣が発行される。政府が「借ります」と判断する“量”に、限界が生じるはずがない。“意志”は無限だ。

 無論、民間の「借ります」は返済が必要な債務(借金)を増やすという話で、“無限”には不可能である。とはいえ、「借ります」が単なる貨幣発行を意味する政府にとって、無限におカネを発行することは、普通に可能だ。

 もっとも、おカネの発行量に限界がなかったとしても、別の制約はかかってくる。国民経済がモノやサービスを生産する能力、筆者の言う「供給能力」、ケルトン教授は「リソース」と表現していたが、政府のおカネ発行で拡大した需要に対し、生産力が追い付かないのでは、インフレ率が適切な範囲を超えて上昇してしまう。インフレ率こそが、政府のおカネ発行、国債発行の上限なのである。

 ケルトン教授は「リスクはインフレ。制約は、あらゆる経済においてインフレ」と、しつこいほどに繰り返していた。

 政府の目的は、財政黒字化でも財政健全化でもない。健全な経済、具体的には適切なインフレ率の下で完全雇用を達成し、国民の所得を伸ばすことである。

 税金とは、政府の財源のためにあるわけではない。目的は経済からおカネ、所得を吸い上げ、国民の支出能力を取り除くことなのである。なぜ、国民の支出能力を除去する必要があるのかといえば、もちろん「インフレを抑制するため」である。徴税とは、国民経済全体の支出能力を弱体化させるための道具なのだ。

 というわけで、ケルトン教授が言うには、消費税増税をしようとする国があったとして、目的が国民の支出能力を奪うことであるならば、まことに理にかなっている。逆に、インフレの問題を抱えていない国、日本もそうだが、消費税を増税することは経済的に意味をなしていないとのことである(誰でも分かるが)。

 日本のインフレ率は図の通りだが、ケルトン教授来日が報じられたテレビ朝日の番組で、MMTに対する意見を求められた麻生財務大臣は「ハイパーインフレーションになる」と答えた。我が国の財務大臣は、正気を失っていると判断するべきだろう。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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