岸明日香 2018年12月20日号

本好きリビドー(220)

掲載日時 2018年09月22日 15時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年9月27日号

快楽の1冊
『モヤモヤするあの人―常識と非常識のあいだ―』 宮崎智之 幻冬舎文庫 580円(本体価格)

★価値観の押し付けと承認欲求の時代
 先般、山口県で行方不明になった2歳男児を無事救出したボランティア、尾畠春夫氏のつもりに扮装した姿をSNSに投稿した芸人が、ネット上で袋叩きに遭い“炎上”した一件は記憶に新しいところ。

 その芸人とは全く面識もなく、ツイッターもフェイスブックもインスタグラムもライン・コサイン・タンジェントも一切やらぬ筆者だが、正直、傍で聞いているだけで息苦しい。そりゃあ個人的な感想としてはあまり似ていると思えないし面白いとも感じないが、だからといって“人としてのセンスを疑う”云々だの、ひたすら“不謹慎”の錦の御旗のもとに人間性まで全否定する必要があるのだろうか。やれやれ流行ものに早速まあ食いついちゃって、仕様がないダボハゼだね、こいつぁ…くらいで苦く笑って済ませられないものか。何も尾畠氏を侮辱したり、誹謗中傷するような行為に及んだ訳でもあるまいに。

 つくづく(筆者も含め)あらゆる素人が秒速で、森羅万象につきモノが言える時代になったと痛感するばかり。すべての事象に善悪・可不可・賛否が踏み絵のごとく迫り迫られ、一様に口ぶりが(嫌な言葉でなるべく使いたくはないが)「上から目線」の評論家のよう。昔、三波春夫は“お客様は神様です”のセリフを残したが、今や“お客様は何様ですか?”と伏し目がちに小声で尋ねたくなるのが偽らざる心境とはいえ、その世間と面会謝絶になるまでは行けぬ読者にとって、本書は正しく精神の酸素吸入器の役割を果たしてくれるだろう。

 新幹線で前席に座った客が、シートを倒すあいさつをしてきただけで仕事の邪魔するクソ野郎呼ばわりする人物のツイートに、何千人もが「いいね!」を押すご時世。心して生きよう。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 テレビでもお馴染みの脳科学者・中野信子さんが、「人はなぜ不倫するのか?」、さらに「不倫する人を、どうして他人は、あれだけ強硬にバッシングするのか?」を、科学的に立証しようという意欲的かつ興味深い本、それが『不倫』(文藝春秋/830円+税)。

 帯に踊るキャッチは「愛と背徳の脳科学」とあり、衝撃的である。
 まず驚くのは、我々人間の半分、つまり50%は「不倫型」の遺伝子を持っているということ。ん? 遺伝子? しかも不倫型って何だ? と思うだろうが、実は論より証拠で、一夫一婦制が倫理観として成立したのはつい最近のことで、昭和世代まで政治家や実業家が愛人やお妾さんを持つなど、当たり前のことだったではないか。

 さらに、今だって世界には、一夫多妻が公認されている国・地域もある(その逆に一婦多夫制度が現存していることも…)。

 また、最近の芸能人の不倫バッシングのすさまじさの秘密も解説。
 ひと口でいえば、「アンタたちだけズルして楽しい思いしているなんて、許せない」という、要は嫉妬なんだけど、それが正義と信じたい人々たちの言動ということらしい。

 ただの難しいサイエンス満載の本ではなく、歴史に残る不倫物語を例に詳解するなど、楽みながら読み進めることができる1冊でもある。

 決して不倫を推奨する書籍ではないだろうが、読み終えると「やっぱ楽しいんだね、不倫」と、なおさら興味津々になってしまいそうで、心配だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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