世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第368回 現金給付とピンハネ税

社会・2020/05/12 06:00 / 掲載号 2020年5月21日号

 乏しい経済対策に国民からの批判が殺到し、安倍政権は閣議決定済みの16兆8000億円(=新規国債発行16兆8000円)を組み換え、国民一人当たり10万円の現金給付を含む総額25兆7000億円の補正予算を「再」閣議決定した。一度、閣議決定された予算が組み替えられること自体が前代未聞なのだが、さらに「新規国債発行(約9兆円)」が追加されたわけで、まさに驚天動地である。

 ところで、ようやく決まった国民一人当たり10万円現金給付について、一部の政治家が愚かな発言をしている。例えば、菅官房長官は4月20日の記者会見で、給付金について自身が受け取るかどうかを問われ、
「常識的には(申請は)しないと思う」
 と述べた。

 いや、常識的に政治家は必ず給付金を申請し、その全額を消費に使わなければならない。菅官房長官が10万円を使ったとき、必ず「別の国民」の所得が創出されるからだ。

 国民が所得激減に苦しんでいる以上、申請しない、あるいは預金するという選択肢は、少なくとも政治家の場合はあり得ない。繰り返し本連載で登場している、国民経済の五原則を改めて読んでほしい。

1.国民経済において、最も重要なのは「需要を満たす供給能力」である。
2.国民経済において、貨幣は使っても消えない。誰かの支出は、誰かの所得である。
3.国民経済において、誰かの金融資産は、必ず誰かの金融負債である。
4.国民経済において、誰かの黒字は、必ず誰かの赤字である。
5.現代において、国家が発行する貨幣の裏づけは「供給能力」である。

「貨幣は使っても消えない。誰かの支出は誰かの所得である」

 筆者は、この単純な事実を10年以上前からしつこく繰り返してきた。例えば、国民のルサンチマンに煽られ、政治家が公務員給与を削減したところで、国民の所得は1円も増えない。それどころか、給与が少なくなった公務員が消費を削減するため、財やサービスを生産している我々国民の所得は減ってしまう。ところが、我が国ではデフレという消費不足、所得不足の状況で、ルサンチマンにまみれた公務員叩きが続いた。

 あるいは、4月14日、自民党、立憲民主党の両国対委員長が、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、国会議員の歳費を1年間、2割削減していくことで一致したとの報道が流れた。正直、筆者の心は怒りに染まった。

 目の前で「飢え」に苦しむ膨大な数の人々が倒れ伏している状況で、
「可哀想に。じゃあ、自分も一食抜く」
 と言ってのける政治家を何と呼ぶべきだろうか。「人間の屑」以外に思いつかない。

 ええ格好しいのスタンドプレーに興じている暇があるならば、さっさと食べ物を調達して、飢えている人々を救うべきではないのか。しかも、日本政府は国民を救うパワーは持っているのだ。

 ところが、長年のデフレとルサンチマン蔓延で、我が国では「カネを使わないことが善」という間違った価値観が共有されてしまった。結果的に、危機において政治家は「自分の歳費を減らす」と、全く国民のためにならない政治パフォーマンスに走る。

 結局のところ、国民経済の「誰かの支出は、誰かの所得」といった基本すら知らない政治家たちにより、日本の政治は取り仕切られているわけだ。衰退するのも、無理もない。

 菅官房長官が給付金を受け取らないと、その分(わずかだが)国債発行+財政支出が減り、国民の貨幣が増えない。所得も増えない。官房長官自ら「国民の所得を増やすことに協力しない」と宣言しているわけだ。

 所得創出のプロセスという、経済の基本中の基本すら理解せずに、政治家を称するのはやめてほしい。官房長官自ら、国民の所得を減らす行為に手を染めてはならない。

 もっとも、より愚かというか、率直に言って「狂気」としか表現できないことを言ってのけたのが、広島県知事である。広島県の湯崎知事は、新型コロナウイルスの感染防止対策として、休業した事業者に支給する支援金の財源に、国から県の職員に給付される10万円の活用を検討していることを明らかにしたのだ。

 明確な私有財産権の侵害だ。

 発言撤回はしたものの、本来、広島県知事がやるべきことは、
「休業補償をするために、政府に地方交付税の増額を求めること」
 であり、職員の懐から不法にカネを奪うことではない。広島県の財源が不足しているのは、日本政府の緊縮財政が問題であり、別に「公務員が恵まれすぎている」といった理由からではない。それどころか、現在、多くの国民が国民の生活や生命を守るために現場で奮闘している。国民のルサンチマンを煽り、緊縮財政を正当化するのは、いい加減にするべきだ。

 菅官房長官や湯崎知事の発言により、国民に「交付金を受け取るのは申し訳ない」との変な空気が蔓延することを恐れる。ちなみに、筆者はもちろん申請し、受け取り、即座に消費する。

 ところが、よくよく考えてみると、10万円の給付金を受け取ったとしても、実際に支払えるのは、9万円なのである。厳密には、9万909円だ。何しろ、給付金を使おうとした場合、消費税という「罰金」を取られることになる。10万円の現金給付を全額消費に使おうとすると、消費税率が10%であるため、実際には「=10万円÷1.1」で、9万909円の購買力しかないのである。

 つまりは、消費税は「消費に対する罰金」であると同時に「給付金という救済措置への罰金」でもあるわけだ。まさに「ピンハネ税」と呼ぶべきだろう。せっかく実現した現金給付10万円も、政府にピンハネされる。

 というわけで、大規模経済対策の第一歩たる現金給付10万円は何とか実現しそうだが、ゴールは遠い。粗利補償で企業を守り、PB黒字化目標を破棄させ、そして消費税率0%を実現しなければならない。

 消費税はピンハネ税。この単純な事実を国民が共有する必要がある。もっとも、10万円の給付金を受け取ったとき、誰もが身をもって理解することになるわけだが。

広島の湯崎英彦県知事

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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