和地つかさ 2018年9月27日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第268回 ヒトを「安く買い叩く」ために

掲載日時 2018年04月26日 08時00分 [政治] / 掲載号 2018年5月3日号

 主流派経済学は「失業」を認めたがらない。厳密には「非・自発的失業」を認めないのである。
 失業者はすべて「自発的」な失業者。彼らは自発的に失業しているにすぎないのだから、財政出動で雇用対策などは打ってはならない。なぜならば、ムダだから。自発的に働かないという選択をしている以上、財政で仕事が増えたとしても、彼らは職には就かない。
 雇用環境は、常に完全雇用である。もし、それでも多少の失業があるのだとしたら、それは構造的な失業である。もしくは失業者の能力と雇用者側の要求との間に「雇用のミスマッチ」があるためだ。というわけで、対策は財政政策ではなく、職業教育と就業者の解雇を容易にする雇用の流動性強化だ。ヒトを簡単に解雇できるようにすれば、むしろ失業率は上昇する。

 と、まあ、上記が主流派経済学の雇用に対する考え方である。日本の内閣府や日本銀行の「完全雇用の失業率」も、完全に上記を踏襲してしまっている。
 日本銀行が「日本の完全雇用の失業率は3.5%」と、世迷言としか言いようがない基準を採用しているのは、過去の失業率の平均をとる「構造的失業率」が3.5%になるためだ。ちなみに「過去」の長さは、組織によって変わる。
 左図(※本誌参照)は「過去10年」で計算した平均失業率になる。日銀の基準でいえば、現在は「完全雇用を下回る失業率」という、意味不明な状況になってしまうわけだ。過去のデータを見る限り、わが国の完全雇用の失業率は「2%」であろう。つまりは、現在の失業率(2.5%)であっても、いまだ完全雇用には達していない。
 お分かりだろうが、構造的失業率は現実の失業率に応じて変わっていく。この構造的失業率が、経済学のいう「完全雇用における失業率」なのだ。デフレーションにより雇用環境が悪化すれば、当たり前の話として構造的失業率は上昇する。すなわち、完全雇用における失業率も上がってしまうのだ。

 上記の考え方がいかにおかしいのか、アスリートを例にすれば理解できる。例えば、100メートル走の選手が、
 「あなたの最高タイムは何秒ですか?」
 と、問われ、
 「わたくしの平均タイムは10.8秒です」
 と、返答するようなものだ。
 実際には、この選手の最高タイムは100メートル10秒になる。とはいえ、いかなるアスリートであっても調子の波というものがある。過去に、絶不調のコンディション下において、11秒という凡庸なタイムを記録してしまったこともある。というわけで、過去の平均タイムを計算すると、10.8秒。最高タイムを問われ、過去最高の10秒ではなく、過去の平均の10.8秒で回答する。これがまさに、経済学のいう「完全雇用の失業率」の考え方なのだ。

 デフレ深刻化で雇用環境が悪化すると、構造的失業率は否応なしに上昇してしまう。ということは、構造的失業率は「完全雇用の失業率」ではない。と、「平均」について学んだばかりの小学生でも気が付きそうなものだが、世界の経済学者や官僚たちは、過去の失業率の平均を計算し、
 「わが国の完全雇用の失業率は○○%」
 などとやっているのである。異様な世界、としか表現のしようがない。

 なぜ、このような異常な考え方がまかり通るのかといえば、
 「非自発的失業など存在しない」
 「今は常に完全雇用」
 「財政出動による失業対策などやってはならない。やるならば、雇用の流動性強化」
 と、世の人が思い、雇用対策の財政政策が行われず、高い失業率が維持されると都合がいい勢力があるためだ。もちろん、資本家、大企業の経営者、投資家など、いわゆる「グローバリスト」である。
 グローバリストが「高失業率」をなぜ好むのか。簡単だ。その方が、「ヒト」を安く買い叩ける。ヒトを安く買い叩くと、中長期的にその国の経済力は落ちていかざるを得ないが、そんなことはどうでもいい。グローバリストの目的は「短期の利益最大化」であり、中長期の経世済民ではない。彼らにとって、国家も国民経済も、行動を制約するものではないのだ(グローバリストとは、そういう人種だ)。

 それでは、失業率が低いときはどうするか。低失業率の時代は、ヒトが「高くなり、大切にされる」ことになるが、それはグローバリストにとっては我慢がならないことだ。だからこその、「人手不足だから、移民受け入れ」なのである。
 失業率が高いときは、「今は完全雇用」と失業対策を防止し、ヒトを安く買い叩く。失業率が低いときは、「人手不足だから移民を受け入れざるを得ない」と、これまたヒトを安く買い叩こうとする。日本の移民問題の本質は、「ここ」にあるという事実に、国民はいい加減に気が付かなければならない。日本の移民問題の本質は、「人口の維持」でもなければ、「活力の維持」とやらでもないのだ。
 現在の日本は、少子高齢化に端を発する生産年齢人口比率の低下を受け、人手不足が深刻化し、失業率が下がっている。「ヒトが大事にされる社会」が近付いているわけだが、だからこその移民受け入れなのである。低賃金でも働く移民が大量に流入すれば、日本人の賃金水準も下がらざるを得ない。

 単に「ヒトを安く買い叩きたい勢力が、移民受け入れを望んでいる」という現実を、いい加減に日本国民は理解する必要がある。問題は「ヒトを買い叩き、自分の利益を最大化したい」という、自己中心的な勢力が「政治力」あるいは「情報発信力」をもってしまっていることなのである。
 この「現実」を無視し、移民問題の議論や政策が進む限り、わが国は「ヒトが安く買い叩かれる」移民国家まっしぐらだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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