本好きリビドー(226)

エンタメ・2018/10/31 15:00 / 掲載号 2018年11月8日号

快楽の1冊
『笠原和夫傑作選(二) 仁義なき戦い 実録映画篇』 笠原和夫 国書刊行会 5000円(本体価格)

★伝説の脚本家、初の選集刊行
 ニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』に想を得て作られたR・シュトラウスの同名の交響曲が、映画『2001年宇宙の旅』冒頭を劇的かつ壮大に飾るサウンドトラックと化した時、もはやニーチェでもシュトラウスでもなく、よくぞあの場面で使用した監督スタンリー・キューブリックのものになってしまったように、『仁義なき戦い』もまた、原作者としての飯干晃一や基礎資料の手記を提供した美能幸三の手を離れ、完全に脚本家・笠原和夫の限りなくオリジナルに近い今や古典となったと断言して憚りなかろう。

 彼の代表作を網羅した待望の傑作選、ついに刊行開始の初回が本書。リアリズムタッチの第一作に続き叙情と感傷のにじむ第二作『広島死闘篇』、グロテスク・コメディーの趣き漂う三作目の『代理戦争』そして時代への挽歌を悲痛に奏でた第四弾『頂上作戦』に至るまでの、磨き上げられた下品さに満ちた台詞、広島弁(と呉弁)でまくし立てられる言葉の粒の立ち方がとにかく尋常でない。

 加えて、併録作品の目玉はやはり現在までとうとう未映画化のままの『実録・共産党』に尽きる。最後は台湾で官憲と銃撃戦の果てに死んだ昭和初期の党中央委員長、渡辺政之輔(通称・渡政)と戦後に党の指導者となる弁護士の徳田球一(通称・徳球)を中心に描くこの群像劇、解説の伊藤彰彦氏によれば渡政役が渡哲也なのはともかく(シナリオを読んだ個人的感想で言えば希望は千葉真一だが)、徳球役が加藤武で内々想定されていたと聞けばたまらない。『代理戦争』でのMr.小心臆病な組長打本役の怪演や金田一耕助シリーズ(市川崑監督版)における「よし! 判った」の等々力警部役に匹敵する代表作が誕生したろうに。残念。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 いつの頃からか「赤提灯」と呼ばれた居酒屋はチェーン店が花盛りとなり、大衆は「養老乃瀧」「村さ来」といった店舗に足を向けるようになった。その他にも、「天狗」「つぼ八」「和民」「庄屋」など、誰もが一度はのれんをくぐったことがあるだろう。『居酒屋チェーン戦国史』(イースト・プレス/861円+税)は、そうした店の創業者たちのアイデアや戦略に焦点を当て、今や当たり前の存在となった居酒屋チェーンのビジネスノウハウに鋭く切り込んだ1冊だ。

 著者の中村芳平氏は外食産業のジャーナリスト。居酒屋チェーンを「ベンチャー企業」に位置付け、一攫千金を目論む経営者たちが鎬を削ってきた業界であると解説する。人気店を出店すれば店舗数は3〜5年で飛躍的に増え、株式上場も夢ではない半面、競争の激化にさらされ、アッという間に凋落することも珍しくない、浮き沈みの激しい世界だという。

 ヒットも凋落も経営者の手腕ひとつの世界であり、だからこそ本書に登場する個性豊かな経営者たちの信条が面白い。

 確かにここ数年を見ても、新興のチェーン店が、続々と話題になっている。「鳥貴族」や「磯丸水産」などが人気を博す一方、かつての栄華に陰りが見えているチェーン店も。そんな中、老舗の「養老乃瀧」が現在も360店を展開し、好調であるというニュース記事をつい最近読んだ。その秘密は何なのか? ビジネス書であると同時に、呑兵衛にはたまらない1冊でもある。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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