園都 2018年6月28日号

本好きリビドー(186)

掲載日時 2018年01月04日 12時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年1月11・18日合併号

本好きリビドー(186)

快楽の1冊
『笑福亭鶴瓶論』 戸部田誠(てれびのスキマ) 新潮新書 820円(本体価格)

 山本周五郎の小説に出てくる人物は、大抵報われない。ほとんどと言ってよいほど彼らの人生はままならず、他者のために良かれと計らったことは裏目に出、あまり目立たぬところで積み重ねられた努力と配慮は決して顧みられることなく労られ、ねぎらわれ、慰められず誉められぬまま。しかし、黙々と信じてなされた逐一を、必ずどこかで見届けている存在がいる…。それが「語り手」だ。
 本書の著者は周五郎文学におけるその語り手の位置に似ている。アクセスできる一次資料だけを頼りに、緻密かつ肌理こまかく丁寧に、日本のお笑い史上空前の“人ったらし”の魅力の根源に迫ろうとする初の試みではないか。
 押しも押されもせぬ大御所、大物芸人を掴まえて今更、報われなさは無縁だろうと思いきや…、たけし、タモリ、さんまのビッグ3やダウンタウンと比較して後続世代に与えた影響の絶大さ、あるいは揺るぎない不動のカリスマ性などの諸点で大きく異なるとしながら(『良い人だけどあこがれないなぁ…』by内村光良、『絶妙の、最高の状態でナメさせてくれる先輩』by宮迫博之等々、惨々な台詞を投げかけられつつ)鶴瓶こそ「最強」であると説く著者の、キーワードは「スケベ」だということ。
 もう10年以上前、早大の大隈小講堂で開催された「わせだ寄席」での高座がすごかった。自身の高校時代を振り返り、その頃ひたすらオモチャにした教師の思い出を緩急自在に語り倒す“私落語”「青木先生」の爆発的なウケ方は尋常一様でなく、他の噺家を容赦なく蹴散らしていたのを思い出す。
 筆者はちなみに最末期の「笑っていいとも!」で2回、鶴瓶師匠と共演できた。2度目に本当に「覚えてるよ」と言われたのを忘れない。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 新春1月7日からNHKの大河ドラマ『西郷どん』の放送がスタートする。そこで今回は、ドラマ鑑賞の手引きとして『西郷隆盛大全』(廣済堂出版/1200円+税)というムックを紹介したい。西郷の生涯・人脈・思想、そして教科書で教えられた従来の史実とは違う新説まで織り交ぜた、興味深い、かつ分かりやすい1冊となっている。
 西郷は、実は謎に満ちた人物だ。例えば、同時代を生きた坂本龍馬の姿が写真として残っているのに対し、西郷には写真がない。イタリア出身の銅版画家が描いたといわれる肖像画(最も一般に知られている西郷の画像)は、彼の死後、親族の顔・体型をもとにして描写したもの。
 いわば虚実織り混ざって後世に伝わっており、今となっては本当の姿は不明。そんな西郷の実像とは?
 また明治維新後、不平士族の不満を外に向けさせるため西郷は征韓論を唱える。だが、この主張が大久保利通らの反対に合い、やむなく下野し鹿児島へ帰郷。そこで政府に半旗を翻し、西南戦争が勃発…。これが教科書における歴史。
 だが、本当はそんな事実はなかったのではないか? それでは西郷の戦いの真相とは、一体何だったのか? などなど、新たな説も掲載され、読み応えある歴史読本となっている。
 人物の肖像画やCG、錦絵、史跡の写真など、ビジュアルが充実しているのも大きな魅力だ。丁寧な解説と照らし合わせて読み進めると、タイムトリップしたような感慨を覚える。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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