菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第263回 イタリア総選挙と「国の借金」

掲載日時 2018年03月20日 14時00分 [政治] / 掲載号 2018年3月29日号

 3月4日に投開票されたイタリア総選挙は、党としては反EUである『五つ星運動』が、下院において32.7%の得票率でトップとなった。ベルルスコーニ元首相が率いるフォルツァ・イタリアを含む中道右派連合の得票率は37.5%。勢力としては、五つ星運動を上回った。
 ジェンティローニ首相を擁する与党の中道左派連合は22.9%と、惨敗を喫した。レンツィ前首相は総選挙惨敗の責任を取り、中道左派連合の中心政党である民主党(PD)党首を辞任。過半数を取った勢力がないため、今後は中道右派連合と五つ星運動による連立交渉が行われることになる。

 特に中道右派連合において、フォルツァ・イタリアが同盟(旧:北部同盟)の得票数を下回った事実は重要だ。フォルツァが同盟を上回った場合、中道右派連合と中道左派連合が連立する路線もあり得たが、現実にはついえた。
 同盟は反EU、反移民である。正直、他国から見ると「五つ星運動とどこが違うのか」と思ってしまうほどに、反グローバリズム色が強い政党なのだ。元々は『北部同盟』の名が示す通り、イタリア北部で強い政党だったが、今回は全国的に支持を広げた。中道右派連合において『同盟』が躍進した以上、イタリアにおいても「反EU」の政権が誕生する可能性が濃厚になった。
 もっとも、五つ星運動と中道右派連合の連立政権が誕生したとして、いきなり「EU離脱の国民投票」といった話にはならないだろう。五つ星運動もこれまで掲げていたユーロ離脱を問う国民投票の実施については取り下げた。とはいえ、さすがに「移民問題」については、反EU色、厳密には「反ドイツ色」が濃くなっていくのは間違いない。

 さて、今回のイタリア総選挙では五つ星運動、中道右派連合、中道左派連合三勢力のすべてが「財政拡大」を公約として掲げていた。五つ星運動と中道右派連合は、減税と公共投資拡大。民主党までもが財政赤字対GDP比を3%に抑えるEUの財政規律「見直し」を訴えていた。
 特に中道右派連合は、一部の公共投資について、「財政赤字から除外し、インフラ投資を拡大する」ことを共通公約にしており、この点は日本も見習うべきだ。
 もっとも、イタリアは共通通貨ユーロ加盟国である。イタリア政府は、中央銀行に通貨発行で国債を買い取らせ、負債を実質的に返済してしまうことはできない。イタリア政府は日本政府と異なり、財政破綻の可能性がゼロではないのだ。

 イタリアではローマやミラノの駅前に、日本のお株を奪うかのように「国の借金時計」が設置され、財政破綻を煽り、選挙戦における各党の財政拡大政策をけん制していた。政府の負債対GDP比率について日本、ギリシャ、イタリアを比較すると、左図(※本誌参照)の通りとなる。
 2016年の日本の政府の負債対GDP比率は約239%、ギリシャが182%、イタリアが133%。これらの数字を受け、財政破綻論者たちは、
 「ギリシャは破綻した。日本の状況はギリシャより悪い。日本も破綻する」
 というレトリックを叫び、財政破綻を煽っている。

 小学生でも理解できるはずだが、「政府の負債」が自国通貨建てなのか、共通通貨建てなのか、外貨建てなのかにより「財政破綻」の確率は変わってくる。日本の場合、政府の負債が100%日本円建てであるため、財政破綻の可能性はゼロだ。
 それに対し、ギリシャやイタリアは共通通貨ユーロ建てになる。当然の話として、財政破綻の可能性はゼロではない。何しろユーロを発行できるのは欧州中央銀行のみなのだ。イタリア政府やギリシャ政府は、日本のように「国債を中央政府に購入させる」ことは、少なくとも国家としてはできない。

 また、'12年にギリシャが財政破綻したとき、長期金利は一時的に40%を突破した。年平均でも22.5%である。財政破綻する国は、必ず国債金利上昇に見舞われる。ところが、財務省や政治家、マスコミが「国の借金で破綻する」と騒ぎ立てる反対側で、日本国債の金利は低下を続け、'16年にはゼロ%を割り込んでしまった。
 もちろん、日本の国債金利が低い理由は「国の信認が高い」といった話ではない。デフレで民間の資金需要がなく、政府の国債が銀行などに「飛ぶように売れる」状況下で、日銀の量的緩和政策で市場の国債が不足したためだ。国債金利の低下=国債価格の上昇になる。つまりは、日本は「自国通貨建て国債」の発行が不足しているのだ。元々の国債不足に加え、日銀が国債買い取りで市場の国債を吸い上げてしまっているからこそ、金利が低い。

 イタリアやギリシャは、ユーロ建て国債市場において他のユーロ加盟国との「競争」を強いられる。政府の負債対GDP比率が上昇していけば、国債金利も上がる可能性はある。とはいえ、日本は違う。日本政府の円建て国債発行に際し、競争は存在しない。
 この決定的な事実を日本の財政破綻論者たちは無視をする。結果的にわが国では国債の発行および流通が足りず、需要不足も続き、デフレも終わらない。

 日本と、ギリシャ、イタリアは違う。日本に財政問題など存在しない。存在しない財政問題に足を引っ張られ、政府が需要拡大のための財政拡大に乗り出せない。結果、デフレ経済の下で実質賃金が低迷、日本に「国の借金問題」とやらはないが、国民の貧困化という問題は間違いなく存在する。
 日本のみならず、世界中に国債の「通貨」を無視する頭の悪い連中がはびこり、わが国の財政破綻を煽ってくる。日本とイタリアは違う。この当たり前の事実を、日本国民は改めて理解しておく必要があるのだ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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