森咲智美 2018年11月22日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第266回 空気による緊縮財政と小国化

掲載日時 2018年04月12日 08時00分 [政治] / 掲載号 2018年4月19日号

 いわゆる森友問題には、ほとんど興味がなかった。森友学園が安倍総理もしくは総理夫人の口利きなり関与なりで、財務省から土地を安く購入した「証拠」があるならばともかく、いまだに証拠が出てこない。
 とはいえ、森友問題に関連し、財務省が行政文書を「改ざん」してしまったとなると、これは話が別だ。行政文書の改ざんは虚偽公文書作成罪に該当する。しかも、罰則は「1年以上10年以下の懲役」と、重い刑罰が下される刑法犯罪だ。

 なぜ、行政文書の改ざんがそれほどまでに深刻な問題なのか。理由は、国家権力とは実質的に「行政」そのものであるためである。行政と立法、司法の3つが互いにチェックし合うことで、国家権力は成り立つ。いわゆる「三権分立」を、読者のほとんどは信じていると思うが、現実は異なる。
 実は、国家権力とは行政そのもので、立法や司法は「行政をコントロールする」役割を担うにすぎないのだ。改めて考えてみると、日本国の国家権力、予算規模100兆円にも及ぶ行政を、「法律制定(立法)」と「司法判断(司法)」のみで完全にコントロールできるはずがない。三権のうち、圧倒的に権力が強いのが「行政」なのである。そして、行政は「文書」で動く。強大な権力を持つ行政を動かす文書を、勝手に改ざんできるとなると、何でもありの世界になってしまう。だからこそ、虚偽公文書作成罪は極めて重い刑罰(ほぼ殺人未遂と同じ)が科せられる「犯罪」とされているのだ。

 さて、3月27日、財務省による行政文書改ざん問題で、前理財局長である佐川宣寿氏の証人喚問が、衆参両院で行われた。佐川氏は、改ざんに際し、安倍総理、総理夫人、官房長官、官房副長官、総理秘書官、さらに麻生財務大臣、大臣秘書官からの指示はなかったと明言。
 一方、肝心要の、
 「なぜ、改ざんが行われたのか?」
 「だれが、どのように指示し、改ざんが行われたのか?」
 については、刑事訴追の恐れを理由に証言を拒否し、野党にとっては甚だしく納得がいかない喚問となった。とはいえ、筆者はある程度納得したのである。

 要するに、現在の日本は、財務省、いや財務省以外の行政や立法、司法を含め、国家権力が明確なロジックや意思決定のプロセスではなく、「空気」により動かされてしまっているのではないか、と。
 日本のデフレを継続させ、国民を貧困化している財務省の緊縮財政にしても、財務官僚は誰も「国の借金で破綻する」などと考えておらず、むしろ話は逆で、「緊縮財政をする」という結論がまず存在し、その結論に導くためのレトリック(国の借金、等)が次々に生み出されているのではないか。そして、なぜ財務省が「緊縮財政をする」という結論になるのかと言えば、「将来世代にツケを残す」「ギリシャみたいになる」ではなく、単なる「空気」に支配されているためなのではないか。
 その何よりの証拠に、緊縮財政に至るレトリックが頻繁に変わる。「緊縮財政が必要」という結論だけは変わらず、その理由やプロセスがひたすら変化するのである。さらに、緊縮財政強行の空気は、過去に財務省が緊縮財政を推進したこと、緊縮財政を推進した財務官僚が、事務次官に出世していったという「歴史」に根差すもので、ロジックによる裏付けがないのではなかろうか。

 2017年末時点で、国債所有に占める日本銀行の割合は43%。直近では、45%に迫っていると思われる。本連載でくどいほど繰り返しているが、日本銀行は日本政府の子会社である。日銀が国債を買い取った時点で、政府は「子会社からおカネを借りている」形になるため、実質的に返済負担がなくなる。親会社、子会社間のおカネの貸し借りは、連結決算で相殺だ。
 日本政府の国債(借金)が100%日本円建てで、日銀の国債買い取りで返済負担が実質的に消滅するわが国には、「財政問題」など存在しないのである。それにも関わらず、財務省は「国の借金で破綻する。緊縮財政が必要だ」なるキャンペーンを止めようとしない。なぜなのか。財務省内の財政に関するスタイルあるいは「空気」が緊縮財政至上主義に支配されているためだ。

 日本国を支配する財政破綻論、緊縮財政至上主義の根底にあるのは、単なる空気なのである。空気に支配された財務官僚がマスコミを動かし、政治家に「ご説明」に伺い、法律まで変えた。かつて大蔵省設置法において、大蔵省の任務は、財務や通貨、為替の管理、貨幣の印刷等の「業務」に限定されていた。それが、'99年の財務省誕生に際した財務省設置法により、
 「財務省は、健全な財政の確保(中略)を図ることを任務とする」
 と、任務にいきなり「健全な財政の確保」という価値観が入ってきた。

 財務省の任務として「健全な財政」と書かれた法律改定にしても、「空気」に支配される大蔵官僚(当時)が、省庁再編時の行政改革会議において、
 「現在、わが国財政は主要先進国中最悪といえる状況となっており、高齢化社会の下で現在の財政構造を放置し、財政赤字の拡大を招けば、国民経済自体の破綻を招く可能性が高い」
 と、主張することで実現したものだ。

 もちろん、わが国の財政は今も当時も「最悪」でも何でもない。財政赤字が拡大しようとも、日銀が国債を買い取っている以上、インフレ率が限度を超えて上昇しない限り全く問題ない。とはいえ、その手のロジックは関係ないのだ。「空気」はロジックを必要としない。
 日本は「空気」により緊縮財政が強行され、小国化への道をひた走っている。それを、森友問題の文書改ざんが証明したように思え、筆者は恐怖しているのである。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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