葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(192)

掲載日時 2018年02月24日 15時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年3月1日号

本好きリビドー(192)

◎快楽の1冊
『新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」 アウトロー俳句』 北大路翼編 河出書房新社 1300円(本体価格)

 「アウトロー」の、それも「俳句」と聞けばやはり咄嗟に浮かぶのは辞世の句だろう。例えば、深作欣二監督の異色作『仁義の墓場』で、あまりの凶暴無比ぶりに同業者すら震え上がらせた曰くつきのヤクザ、石川力夫が自殺直前に残した“大笑い三十年の馬鹿騒ぎ”。
 遡るならアナーキスト大杉栄の殺害に関与したとされ、服役後は大陸に渡り満映で辣腕をふるった甘粕正彦が敗戦時に詠んだ“大ばくち身ぐるみ脱いですってんてん”もこの系譜に連なるもの。あるいは朝日新聞の社長室で拳銃自決を遂げた新右翼の巨頭、野村秋介の、これは辞世ではないが“俺に是非を説くな激しき雪が好き”も心情的には加えたいところだし、アウトローと呼ぶには些か筋違いながら吉井勇の絶唱“極道に生まれて河豚の旨さかな”も欠かすわけにいくまい…と枚挙に暇ない。
 その点、本書に登場する面々の句は生活密着型というか実感100%型というか、句の背後に「絵」がパッと広がる具体性に満ちている。
 無職、ギャンブラー、元ホスト、女装趣味のバーテンダー、難病患者、メンヘラ系女子…と詠み手の出自もさまざまだがまさに御意見無用、歳時記不要の赤裸々感が漲ってすばらしい。
 “人妻の調教終へて神社まで”そこから先の展開が気になる。“駐車場雪に土下座の跡残る”Vシネ数本分の訴求力と光景喚起。“春一番次は裁判所で会はう”もはやダンディズム。“六本木ヒルズに行つたことがある”それがどうしたと言う勿れ、不思議なおかしみが漂う。自由律も傑作で“ゆつくりなら火箸でも大丈夫”どんなプレイか? そして思わず笑った“老婆かと思つたら内田裕也”。つられて彼らの吟行に飛び入りしたくなるこの句集、“好きなのは少し壊れてゐるところ”。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 何かと騒がしい大相撲。特に最近は、土俵の上より日本相撲協会に関する話題に事欠かない。
 その協会のトップに君臨する理事長には、数名の例外を除いて横綱経験者が就任することが圧倒的に多い。現理事長・八角親方は元北勝海、先代理事長は「憎らしいほど強い」と言われた北の湖だった。
 他にも時津風(元双葉山)、春日野(元栃錦)、二子山(元初代若乃花)、出羽海(元佐田の山)と、相撲界のそうそうたるビッグネームが並ぶ。現役時代に綱を張った威光が、引退後も引き継がれているのは明らかだ。
 横綱とは、一体何者? その答えを横綱たち自身が口にしたセリフから読みとこうという書籍が、『大相撲 横綱が残す100の言葉』(カンゼン/1500円+税)である。
 サブタイトルに「日本人の心に響く金言集」とある通り、角界の頂点を極めた男たちの言葉は、確かに琴線に触れる。「心の上に刃を置いて生きてきた」(大鵬)、「いかなる時でも言い訳はしない」(千代の富士)等々…読み進めるごとに、横綱とはトップアスリートというより“武士”のイメージが強いことに気付かされる。日本人が横綱に重ねる像は古風な侍であり、だからこそ、日本人は横綱を愛する。
 64場所と横綱在位歴代1位を誇るモンゴル人の白鵬が批判される機会が多いのも、負けた取り組み後に言い訳する姿が「武士らしくない」と思うファンが多いからかもしれない。
 特別な存在の横綱とは何か、が伝わってくる1冊だ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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