中島史恵 2019年6月6日号

ルノー産業スパイ事件諜略疑惑浮上 返り血をあびる日産ゴーン社長の断末魔(2)

掲載日時 2011年03月26日 11時00分 [社会] / 掲載号 2011年3月31日号

 日産・ルノー連合の電気自動車(EV)機密情報が流出したとされる、ルノーの産業スパイ事件が怪しい雲行きになってきた。

 ルノーは1月末、EV情報を外部に流した見返りに国外の秘密口座で報酬を受け取ったとして3人の幹部を解雇し、検察当局に告訴。当時から「流出先は中国企業」と囁かれ、関係者が「空前の産業スパイ事件に発展するのではないか」と色めきたったばかりである。ところが、ここへ来て風向きが一変した。こともあろうに、事件はルノーが仕掛けた社内謀略の疑いが俄かに強まったのである。
 もしルノーが権力抗争の揚げ句に事件をデッチ上げ、幹部3人の追い落としを謀ったのであれば、カルロス・ゴーン会長は真っ先に槍玉に上がる。下手をすれば誣告罪での刑務所行きも避けられない。そんな事態になればゴーン社長率いる日産自動車を直撃する。

 衝撃的なのはフランス内務省の情報機関、国内中央情報局の関係者がAFP通信に「産業スパイの証拠が見当たらない」と語り、事件そのものが冤罪だった可能性を示唆したことだ。曰く「ルノーの内部調査情報は恐らく間違っていた。国内中央情報局は早い段階で産業スパイ事件そのものを疑っていた」と踏み込んだのである。
 ここで言う「ルノーの内部調査」には多少の説明が要る。実をいうとルノー自体は産業スパイ事件の内容は一切公表していない。ところが、地元メディアを通じて内部調査なるものが次々とリークされてきた。その核心部分は、事件の主犯と目されている3人の幹部のうち2人が国外に銀行口座を保有し、うち1人が保有するスイスの口座に5500万円、もう1人が保有するリヒテンシュタインの口座に1400万円の残高が確認された。送金主は北京に本拠を置く電力会社で、送金元を不透明にする目的からか、香港やマルタの企業を経由していた形跡があったとされている。

 しかし、先のAFP通信によると、国内中央情報局が確認したところ、当該の銀行口座は存在しなかったという。それだけではない、フランスの有力紙「リベラシオン」の報道によると、ルノーのNo.2であるパトリック・ペラタ最高執行責任者は2月28日、首相府で政府首脳と会談し「解雇した3人の幹部のうち2人は国外に銀行口座がなく、派閥抗争の犠牲者だった可能性がある」として冤罪を示唆したとされている。すなわち、フランスの情報機関とルノー首脳が口を揃えて世界の耳目を集めてきた産業スパイ事件の構図そのものを真っ向から否定し始めたのだ。
 「今となっては後出しジャンケンと言われかねませんが、ある時期から『どうもこの事件は裏があるようだ』と訝る向きが少なくなかった。とりわけ1月半ばに『ルモンド』が巨額報酬の送金元とされた中国企業が実際には存在しないことをスッパ抜いた辺りから風向きが変わってきた。しかもルノーは去年の夏に匿名の告発を受けて独自に調査したとされていますが、捜査当局の協力も無く、どうやって秘密口座を探り出し、残高まで確認できたのか。これ自体、今となっては噴飯ものですし、ルノーが公言していた興信所への調査費用600万円にしても『特殊リサーチにしては余りに安い』と舞台裏を詮索する声さえ聞かれたものです」(業界関係者)

 これではゴーン会長(日産社長)が“誤解”を解こうと躍起になって当たり前。果たせるかな、ゴーン会長は1月23日、産業スパイ事件が表面化してから初めて地元メディアの取材に応じて「狙われたのはEV技術ではなく、EV戦略だった可能性がある」と述べている。その根拠は「EVの主要3要素であるバッテリー、モーター、チャージャーを全て自社開発しているのはルノーだけだ」というのだが、実際にはルノーが日産のEV技術をふんだんに取り込んでいるのは多くを語るまでもない。むしろ、ゴーン会長は「ルノーには産業スパイが喉から手が出るほど欲しいEV技術とEV戦略がある」とアピールすることで、被害者の立場を強調する必要があった、といえば話は早い。皮肉にも、そんな“自作自演”にほころびが生じ、謀略そのものが馬脚を現しかねなくなってきたのだ。
 「これで解雇された3人の幹部のうち、少なくとも2人は直ちに会社への反撃を開始するでしょう。冤罪の可能性が出てきた以上、勇気百倍となってルノー経営陣をトコトン追い詰めるに決まっています。もう1人にしても国外に秘密口座がなく、従って賄賂を受け取った事実が確認されないのだから全面対決は必至。既に1人の元幹部は会社を相手取って逆告訴しており、これに2人が追随するのは目に見えている。ルノーはべら棒に高いツケを支払うハメになりそうです」(経済記者)

 もしゴーン会長が誣告罪で投獄されることがあれば、ルノーだけでなく、カリスマ経営者の辣腕に頼ってきた日産までが大揺れすることは間違いない。
 「喩え投獄の事態を回避できたとしても、その前段階としてゴーン社長が母国のフランスで刑事被告人に連座すれば、それだけで経営の表舞台から引き摺り下ろされる。いくら後継者が育っているとはいえ、EV車で快進撃を続ける日産にとってはイメージ悪化でしかなく、業績の急ブレーキは避けられません。そんな負の連鎖にどうして考えが及ばなかったのか、不可解の一語に尽きます」

 前出の業界関係者はそんな感想を漏らすが、情報筋によるとフランスの捜査当局は3人の元幹部とルノー経営陣の間にどんな確執があったのかに強い関心を寄せているという。果たしてゴーン会長の腹の内はどうだったのか。ルノーを襲う“揺れ戻し”の激震に日産が翻弄されそうだ。

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