本好きのリビドー

エンタメ・2020/01/26 06:00 / 掲載号 2020年1月30日号
本好きのリビドー

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◎悦楽の1冊『首』北野武 角川書店 1600円(本体価格)

★世界のキタノが紡ぎ出す歴史長編

 遂にNHK大河ドラマの主人公に明智光秀が選ばれた今年。既にОA前から本能寺の変にまつわる関連書籍の出版も花盛りな模様だが、一味違った強烈な彩りを添えるのが本書だ。

 もうのっけから、いわゆる歴史小説の常識、ないしお約束めいたルールなど完全無視の自己流、滅茶苦茶な語り口が楽しい。一応、時は文禄年間、秀吉の治世の頃、その御伽衆(お抱えの噺家的存在)として名高かった曽呂利新左衛門が、御前公演よろしく本能寺の舞台裏、その真相を講談(否むしろ漫談?)調に解き明かしてゆく…という筋立てではあるものの、なにしろ「三好三人衆というのはムード歌謡の歌手とかではなくて、」なんて一行がいきなり目に飛び込んでくれば、内心当たり前だよ! と突っ込みつつも、読者には曽呂利の語りか、芸人ビートたけしの地のしゃべりか区別がつかなくなってくる。

 信長とその家臣・光秀や秀吉、あるいは盟友である家康との間に繰り広げられる駆け引き、心理戦の描きぶりは北野映画さながら、戦国版『アウトレイジ』そのもの。

 だが、尚もサービス精神旺盛な著者は、備中高松城をめぐる攻防戦で、織田方の黒田官兵衛と和睦の条件を話し合う場面で、毛利側の安国寺恵瓊に「他所から来た侍どもの風下に我らは立たんで」「血の海になるけえの!」と広島弁で叫ばせるのだが、これがニクい。

 言うまでもなく「仁義なき戦い・頂上作戦」で小林旭演じる武田明が、神戸から来た大組織の幹部役の梅宮辰夫に向かって切る啖呵、「広島極道は芋かも知れんが、旅の風下に立ったことは一遍もないんで」の見事なパロディーに拍手を。やはり本作も大画面で観たいもの。
(黒椿椿十郎/文芸評論家)

【昇天の1冊】

 昨年、大晦日に報道されたブッ飛びニュースが、元日産CEO、カルロス・ゴーン氏の国外逃亡だった。チャーター機を使い、大きなケースの中に隠れて税関をすり抜け日本から出国するという、『スパイ大作戦』さながらの脱出劇だったという。

 元米軍特殊部隊やレバノンが国ぐるみで関与したなどとうわさされているが、真相は追々明らかになるだろう。それより驚くべきは、海外逃亡をいとも簡単にやってのけるゴーン氏の底知れぬ実行力と資金力だろう。諜報工作員並みの離れ業をやってのけたカルロス・ゴーンとは、いったい何者なのか?

 その人物像を紐解く一助となりそうなのが、『カリスマ失墜 ゴーン帝国の20年』(日経BP/税込1760円)だ。発売は昨年4月。フランスから日産の再建でやって来た男が、大リストラの果てにトップへと君臨するも、一方で不正に手を染め、会社内で凄絶な暗闘を繰り広げたとされる経緯を追ったノンフィクション。

 本著で目につくのは公私混同、強欲、収奪といった、企業の私物化に精力を注ぎ込む姿。その姿勢は今読むと、自らに不可能はないとでも言いたげだ。今回の映画のような荒唐無稽な逃走劇もまったく同様で、ゴーン氏とは不可能を可能にしてしまう男と言える。

 日本人にはない桁外れの欲望。思い通りにするためには手段を選ばない行動力。この男は、すべてが“想定外”。私物化した資産が膨大な逃亡の費用に使われたとしても、もはや後の祭りだ。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

【話題の1冊】著者インタビュー 江本孟紀
人生9回裏の戦い方 竹書房 1,800円(本体価格)

★“諦め”の境地で楽に自由に生きていく

――2017年、70歳の時に胃がんの宣告を受けたそうですね。正直、どんな気持ちでしたか?
江本 人生も70歳近くなって、この後、「自分はどんな終末を迎えるのかな?」などと考えるようになっていた矢先、たまたま受けた検査でがんが判明しました。しかも、ステージ3の末期寸前だったことから、「これが、俺の死ぬ原因となるんだな」とある意味納得しました。もっとも、8年ほど前から糖尿病を患っていたので、血糖値には気を付けていたんですが、まさか、自分ががんになるとは思ってもいませんでしたね。

――がん宣告が自分の人生を見つめ直す“きっかけ”になったそうですね。どのように変わりましたか?
江本 人生の終わりを垣間見たこともあり、ふと自分の人生を振り返ってみるとよくもまぁ、いろんな経験や体験をしたもんだと妙に納得しました(笑)。もちろん、すべて自分が選んだ道であり、そこに後悔はありません。親や他人に「これをやれ、あれをやれ」と指図されていたら、ここまでの納得感を得ることはなかったでしょうね。
 今は「残りの人生を楽しくすごしたい」と考えるようになりました。その結果、以前はあまり行かなかった旅行や、めったにしなかったゴルフの回数が増えました。

――江本さんの先輩には“粋な老い方”をしている方がたくさんいるそうですね。特に印象深い方は誰ですか?
江本 以前、たまたま打ち合わせがあった帰り道、偶然、かつてのスター打者、別当薫さん(元大洋ホエールズ監督など)が、住宅地を散歩している姿を見かけたことがありました。
 愛犬を連れ、下駄を「カラン、カラン」と鳴らしながら歩く姿に、「粋だなぁ」と心の中で思わずつぶやきました。あれほどの有名人が人前に出ずに、静かに余生をすごされている。老いた姿が印象的でした。

――今後はどんな老後生活を計画しているのでしょうか?
江本 とにかく自分の老い先が見えてきたので、身の回りの整理も含めて、仕事や遊びの計画を立てていきたいですね。もはや思い残すことはありません。今後は楽しく自由に老後を送りたいと考えています。最近、自転車を購入したので、街をぶらぶら散策したり、暖かくなってきたら、ハーレーでバイクツーリングも楽しみたいですね。
 人生、ある程度の節目にきたら病気やストレスを気にせず、ある種の“諦め”の境地で楽に自由に生きていくのがいいんじゃないでしょうか。
(聞き手/程原ケン)

江本孟紀(えもと・たけのり)
1947年7月22日生。高知県出身。高知商から法政大、熊谷組に進み、’70年東映にプロ入り。’92年には参議院議員に初当選。現在は、野球解説、講演会、執筆活動、野球界の底辺拡大等に力を注いでいる。

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