中島史恵 2019年6月6日号

本好きリビドー(36)

掲載日時 2014年12月28日 17時00分 [エンタメ] / 掲載号 2015年1月1日号

◎快楽の1冊
『5人のジュンコ』 真梨幸子 徳間書店 1500円(本体価格)

 この小説は2009年に発覚した首都圏連続不審死事件からインスパイアされて書かれたように思われる。現在も公判が進んでいるけれど、とにかく木嶋佳苗被告の容貌が決して特別の美人と多くの人には感じられないのに、複数の男性と交際し多額の金を吸い取り、揚げ句に殺害したらしいということが各種マスコミで報道され、全国の注目を集めるようになったのだ。
 本作『5人のジュンコ』の冒頭は「伊豆連続不審死事件」について極めて冷静に書かれている。元スナックホステスの佐竹純子が犯したと思われる不審死事件が複数記述される。ところがこの後、例えば佐竹純子の半生や殺人シーンをドキュメンタリー・タッチで描く、という展開にならないところが面白い。
 真梨幸子は'05年に作家デビューした。'08年の『殺人鬼フジコの衝動』が文庫化された際に大ヒットし、いわゆる“イヤミス”の旗手として注目されるようになった。イヤミスというのは読んでいる最中や読後、非常に嫌な気持ちになるミステリーを指す文芸用語というか通称である。
 冒頭の冷静で淡白な記述の後、本作は五つのエピソードで構成される。それぞれのタイトルは「淳子」「順子」といった具合にすべて異なる漢字でジュンコと読める名前になっている。佐竹純子が常にストーリーの中心に位置しているけれども、主人公は各々違うのだ。ある者は中学校時代に純子と常に行動を共にしていた女性であり、ある者は伊豆不審死事件の真相を探っていくジャーナリストだ。さらに面白いのは、彼女たちの内面を掘り下げることのみが作者の主眼ではなく、日常生活、例えば職場や社宅などでの女性同士の関係をかなり辛辣に描くことにも筆が費やされているところだ。それを読むのが嫌であっても快感だ。作者は桐野夏生の風格に近付いているのかもしれない。
(中辻理夫/文芸評論家)

【昇天の1冊】
 ヴァーチャル・リアリティー(仮想現実)もここまで来たか…そう思わせる1冊が出版された。『二次元彼女とセックスする方法』(三和出版/税込2500円)は、いわば男性のための自慰マニュアルだ。
 脳内で架空のセックスをしながら、実際には手淫…つまりオナニーに耽る。ところが仮想現実体験だけに、通常の自慰よりずっと気持ちいいというのが、この書籍の骨子である。
 仮想現実をリアルに体験するために使われるのが、ここでは“催淫”である。付録の催淫音声CDを聴く。CDの中には、例えば読者が女性になって、レズの女とセックスし、アナルを調教されるという催淫…つまり、暗示をかけるための肉声が収録されている。
 それを聴くと、知らずにアナルに手が伸び、いじりながら喘いでいる…ということらしい。
 こうしたアブノーマル・オナニーの実践を通じ、次には男性読者が催淫術を覚え、女性を淫らな獣へと誘導していく“術”が綴られる。もろちん、女性にかけた催淫術を解除する方法まで網羅しており、危険はないそうだ。
 本誌読者諸兄の世代にとって、自慰の“オカズ”はエロ本であり、アダルトビデオであったはず。今やそれでは飽き足らず、よりリアリティーを伴って五感を刺激するメディアが出現したということだろう。
 こうした自慰本が主流になると、次第に「生身の♀は不必要」という男が増えていくのではなかろうか。まあ、余計なお世話と言われればそれまでだが。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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