鈴木ふみ奈 2018年11月1日号

本好きリビドー(219)

掲載日時 2018年09月17日 12時00分 [エンタメ] / 掲載号 2018年9月20日号

◎快楽の1冊
『日本が戦ってくれて感謝しています』 井上和彦 産経NF文庫 860円(本体価格)
『日本が戦ってくれて感謝しています2』 井上和彦 産経NF文庫 820円(本体価格)
★激戦の中で日本軍は何を遺したのか
 毎年8月15日前後になれば、総理はじめ閣僚級の政治家はあたかも踏み絵を迫られるかのように靖国神社への参拝の有無を問われ、戦没者を追悼する言葉に「アジア諸国への反省と謝罪」が具体的になければ(否、あっても)血相変えて非難する大手メディア…正直この茶番、一体いつまで続くのか。
 そもそも「アジア諸国」とはどこを指すのか。煎じ詰めればほとんど中・韓両国だけではないかという話で、この点昨今連呼される“オール沖縄”に覚える違和感と極めて相通じるといえよう。県民の声が真に米軍基地絶対反対が大勢を占めているのかどうかは、ここ数年の国政・地方とも選挙の結果を見る限り事実は全く異なる様相を呈する。
 大東亜戦争(でなく「太平洋戦争」と言わねばならぬのも、一種強制的な自主規制に過ぎない)を戦って敗れた日本は、本当にいまだ呪詛と怨嗟に満ちたまなざしを「アジア諸国」の市井の人々から浴びているのか?
 その答えを求めて著者が現地突撃取材を重ねた各国で聞こえ、また目の当たりにした光景といえば…台湾では大和魂を忘れぬ人が日本精神と武士道を熱く語り、フィリピンでは何と神風特攻隊の慰霊祭が行われて笑顔の少女たちが日の丸の小旗を振り、インドでは独立戦争を共に闘った戦友として迎えられ、マレーシアでは白人からの解放者としてたたえられ、そして激戦地ペリリュー島を含むパラオに至っては国旗のデザイン自体が日章旗をモデルにしたもの。
 戦後教育の現場からは決して見えてこない現実を、驚愕と動揺と共に伝える著者の筆致は静かな怒りと涙に満ちて、熱い。インドネシアや地中海のマルタにまで遠征した「2」とぜひ併読してほしい。まさに魂の紀行だ。_(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 現在放送されているNHK大河ドラマ『西郷どん』は、幕末〜明治維新を舞台としているから、江戸時代の「藩主」、つまり殿様が登場する。薩摩藩、福井藩、会津藩の藩主は、すでに出演している。今後は長州藩や佐賀藩の藩主も出てくるかもしれない。
 西郷隆盛や坂本龍馬ら、維新の英傑たちの生涯は知られているが、殿様たちが明治維新後をどう暮らしたかは、歴史に埋もれてしまっている。そんな殿様の“その後”を追跡したノンフィクションが『殿様は「明治」をどう生きたのか』(洋泉社/930円+税)である。
 目次を見ると、『西郷どん』にも登場していた松平容保(会津藩主)、松平春嶽(福井藩主)の名があるが、初めてその名を聞く、小さな藩の殿様の名もある。例えば林忠崇(請西藩/現在の千葉県の一部を領土としていた)、岡部長織(岸和田藩/だんじり祭りを始めた大阪の小藩)
 林は激貧生活を送ることを余儀なくされながらも、あの時代にあって異例の長寿を全うした。岡部は留学した後に外交官になり、家族を大切にするマイホームパパとなったという。
 また、坂本龍馬を輩出した土佐藩の山内容堂は、幕末四賢侯の一人と呼ばれる名高い名君だが、晩年は酒に溺れた。明治新政府への不満からアルコール漬けとなり、それが原因で命を縮めたという。
 藩主という肩書きを失い、一人の人間となった殿様たちの“素”の部分が垣間見える。その姿は人間味に満ち親しみやすい一方、どこかはかなげでもある。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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