☆HOSHINO 2019年6月27日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第312回 岩田規久男教授の正しい転向

掲載日時 2019年03月19日 06時30分 [社会] / 掲載号 2019年3月28日号

 2月18日、前日銀副総裁の岩田規久男教授がロイターのインタビューに応じ、デフレ脱却のためには、今年10月に予定されている消費税率10%への引き上げについて「とんでもない」と表現し、増税の“撤回”が必要と強調。さらに国債発行を財源とし、若い世代に所得分配する財政拡大が不可欠と語った。つまりは、財政と金融が協調しなければならないという話だ。

 実に真っ当である。図の通り、2013年3月に黒田東彦元財務官が日銀総裁に就任して以降、日本銀行は通貨(日銀当座預金)を発行し、銀行から国債を買い取る量的緩和政策を継続してきた。

 日本銀行(以下、日銀)は、すでに370兆円も日銀当座預金を増やしたわけだが、インフレ率はほぼゼロ。日銀のインフレ目標2%の達成からは、ほど遠い水準に低迷している。

 そもそも「物価」とは、モノやサービスの価格のことである。物価は、いつ上がるのか。もちろん、モノやサービスがたくさん買われたときだ。

 日銀が銀行から買い取っているのは国債であり、モノでもサービスでもない。本来は、日本銀行が金融緩和を継続すると同時に、政府が国債を発行。借り入れたおカネでモノやサービスを買わなければならなかった。

 政府の支出先は、とにかく国民の“仕事”が生まれるならば何でもいい。公共投資により国土強靭化、交通・防災インフラの整備を進めても構わない。防衛力強化や教育充実、科学予算の拡大も望ましい。あるいは、医療サービスや介護サービスの充実。日銀の金融緩和で国債金利を抑制し、同時に政府が国民の仕事=所得になるようにおカネを使えば、我が国はとうにデフレから脱却していたはずなのである。

 ところが、安倍政権は財務省の前に膝を屈した。’14年4月に消費税増税。さらには、診療報酬や介護報酬の削減。そして、公共事業費の抑制だ。

 誤解している読者が多いだろうが、実は第二次安倍政権以降の公共事業支出の年平均は、民主党政権期を下回っているのである。安倍政権は、民主党の「コンクリートから人へ」を継承した内閣だ。いや「人(社会保障支出)」も抑制しているため、厳密には「コンクリートにも、ヒトにもおカネを出さない政府」が正しいのだが。

 政府が支出を拡大し、モノやサービスを買わなければならない状況で、安倍政権は財務省主導の緊縮財政路線を邁進。自らは支出を増やさず、挙句の果てに国民の支出意欲を叩き潰す消費税増税だ。

 反対側で、日本銀行は懸命に国債を買い取り、量的緩和を継続したが、インフレ率は上がらなかった。当たり前である。

 その上、安倍政権は今年10月に消費税を再増税しようとしている。岩田教授ではないが「とんでもない」としか表現のしようがない。

 冒頭のインタビューにおいて、岩田教授は、
「日銀の金融超緩和政策だけではインフレ予想を上げることができず、2%の物価安定目標の達成に失敗する可能性が極めて高い」
「財政と金融が一致協力して、お金を民間に流すことを真剣に考えるべき」
 と過去の自説(コミットメント理論)を撤回した。日銀副総裁時代の岩田教授の持論は、
「日銀がインフレ目標を設定し、量的緩和の継続をコミットメントすることで、予想インフレ率を引き上げ、実質金利を下げ、消費や投資が増えてデフレ脱却できる」
 というものだった。いわゆる「リフレ派理論」である。

 リフレ派理論では、日本のデフレ脱却は果たせなかった。というわけで、岩田教授は「財政が必要(財政「も」ではなく)」と、自らの考えを現実に合わせて修正したのである。過去の自らの言説を否定できず、現実逃避を繰り返す学者が多い中、率直に書くが、尊敬に値する。

 また、岩田教授は、
「’14年度の消費増税の結果は、マンデル・フレミング・モデル(以下、MFモデル)が通用しなかったことを示している」
 と、経済学者が大好きな(しかも、間違っている)MFモデルを否定した。

 MFモデルとは、財政を拡大する際の国債発行が金利を引き上げ、円高になり、輸出が減るため、財政出動によるGDP増加分を相殺してしまうという、新古典派経済学の「机上の理論」である。

 国債発行が金利を引き上げ、民間投資が減るという「クラウディングアウト理論」と裏表になっているわけだが、MFだろうがクラウディングアウトだろうが、デフレで資金需要が乏しい時期には成立しない。何しろ、現在の日本では長期金利がマイナスに落ち込んでいるにも関わらず、投資が拡大せず、銀行融資も低迷している。

 しかも、日本銀行が国債を買い取り、金利抑制に動いている以上、政府が国債増発に動いたところで、金利上昇など起き得ない。

 むしろ、国債発行が金利を上昇させるほどインフレ予想が高まっているならば、それは単に「デフレから脱却した」という話にすぎない。

 現実の日本では、民間企業の資金需要が乏しく、政府の国債発行は、単に日本のGDPを拡大させるだけの効果である。

 必要なのは、国債発行と財政支出なのだ。政府の需要創出による国民の所得拡大と、供給能力の回復こそが、まさに「この道しかない」と断言できるほどに正しい政策だ。

 経済力とは、おカネの量ではない。モノやサービスを生産する力(供給能力)の合計こそが、国家の経済力だ。

 日本は長年の緊縮財政とデフレで、虎の子の供給能力を喪失していった。将来的な発展途上国化を防ぐためにも、政府は財政を拡大し、需要を安定的に増やし、民間企業が安心して投資できる環境を作らなければならないのである。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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