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プロレス解体新書 ROUND15 〈花も実もある名勝負〉 “夏の夜の夢”鶴田vsマスカラス

掲載日時 2016年08月24日 10時00分 [スポーツ] / 掲載号 2016年8月25日・9月1日合併号

 昭和プロレスで夏の風物詩といえば“千の顔を持つ男”ミル・マスカラス。その日本でのベストバウトが、1977年8月25日、東京田園コロシアム、ジャンボ鶴田の持つUNヘビー級選手権への挑戦試合だ。
 試合直前までの雨を晴らすような熱戦は、当時“プロレス新時代の幕開け”とも称される名勝負となった。

 プロレス大賞では年間最高試合にも選ばれた田園コロシアムでの鶴田vsマスカラス、UNヘビー級選手権60分3本勝負。現今のプロレスを見慣れた目には、もしかすると“退屈な試合”と映るのかもしれない。
 マスカラスの代名詞とされる跳び技は、30分を超える試合の中でフライング・クロスチョップ5発にドロップキック、そして決着直前にコーナーポスト最上段から、場外の鶴田に向けて放たれたトペ・スイシーダぐらい。
 「伝説として語られることも多いこの場外ダイブを、フライング・ボディアタックとする言説も見かけますが、頭からドスンと落っこちるその様子は、やはりトペとする方が正確でしょう」(プロレスライター)

 現在の進化した空中戦と比べれば、高さも滞空時間も及ばないが、当時としては実況の倉持隆夫アナが、「人間が空を飛んだ〜!」と絶叫したほどに画期的な技だった。
 「そもそもマスカラス以前は、ヘビー級の跳び技といえばドロップキックぐらいのもので、ルチャ・リブレ式の空中戦という概念自体が存在しなかった。それを世に広めた先駆者であるマスカラスを現代の基準で測るのは、ちょっと乱暴ではないでしょうか」(同)

 では、この試合がオールドタイマーによる懐メロに過ぎないのかといえば、決してそうではない。
 「まず目を見張らされるのが、マスカラスの技の多彩さです。序盤からさまざまなメキシカン・ストレッチを繰り出すのですが、似たような技でも極める部位が異なったり、ジワジワ締め付けるかと思えば一転して激しく揺さぶったりと、一つとして同じものがない。グラウンド主体の攻防でありながら、まったく飽きることがありません」(同)

 3本勝負の1本目を奪ったのもやはり、腕と首を極める形の日本初公開となる複合ストレッチ技であった。
 空中戦ばかりで語られがちなマスカラスだが、そうした多様な技を流れるように繰り出すあたりも、隠れた凄みと言えるだろう。
 例えば、ロメロ・スペシャル(吊り天井固め)のような複雑な技に入る際には、どうしても準備段階で間が空いてしまうことも多いのだが、マスカラスは一切それを感じさせることがない。鶴田のような超ヘビー級選手を相手にしながら、これほど流麗に技を繰り出すことのできるレスラーは、現在まで含めてもいったいどれほどいることか。

 練習風景などはまず公開することのなかったマスカラスだが、高難度の技をやすやすと使いこなすその裏では、相当な鍛錬のあったことがうかがえる。
 「それもあってかシュート(真剣勝負)でも相当強かったようで、全日本プロレス参戦時にキツイ攻めをしてきたスタン・ハンセンに対し、ガチで腕を極めて灸をすえたとの逸話もあります」(スポーツ紙記者)

 鍛錬といえば、その分厚い胸板に象徴される肉体についても同じことが言えよう。
 「まさに逆三角形と呼ぶにふさわしい肉体美。プロレスデビューの前にはボディービルで“ミスターメキシコ”に輝いたそうですが、あれほどの体形を維持し続けるには、やはり裏でのすさまじい努力があったに違いありません」(同)

 だが、肉体ということでは一方の鶴田も負けてはいない。このときの公称は身長197センチ、体重115キロ。現在の日本人アスリートでは、阪神タイガースの藤波晋太郎投手が鶴田と同じ197センチである。
 それほどの長身でありながら、身長176センチ、体重108キロのマスカラス(当時の公称)に劣らぬ素早い動きができるのは、やはり鶴田の身体能力の高さゆえのこと。中でも、鶴田が2本目を奪ったコーナーポストからのミサイルキックは、その巨躯で仕掛けるには相当な脚力やバネが求められる。

 試合の決着となる3本目は、前述の場外ダイブの際にマスカラスの脚が客席のパイプ椅子に挟まり、その間に帰還した鶴田のリングアウト勝ち。激闘を繰り広げた両者に対し客席から惜しみない歓声が送られた。
 「ちなみにこの試合は同日のメーンイベントで、セミファイナルはジャイアント馬場&天龍源一郎vsスエード・ハンセン&タンク・パットンという地味な顔合わせでした。外人天国と言われた当時の全日で、このクラスしか呼べなかったところをみると、それだけマスカラスのファイトマネーが高かったのでしょう」(プロレス研究家)

 世界的トップスターのマスカラスに、次期エースとはいえ若手である鶴田の負け役を受けさせるには、相応の対価が必要だったとも言えよう。

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