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やくみつるの「シネマ小言主義」 あまりにベタ…。でも大ハズレはしない映画です 『栄光のランナー/1936ベルリン』

掲載日時 2016年08月14日 12時00分 [エンタメ] / 掲載号 2016年8月18日号

やくみつるの「シネマ小言主義」 あまりにベタ…。でも大ハズレはしない映画です 『栄光のランナー/1936ベルリン』

 『栄光のランナー』…ベタ過ぎる邦題です。一方、原題はというと“RACE”。「競争」という意味の他に「人種」というダブルミーニングが効いた、うまいタイトルがついています。というのもこの作品は、単なる天才ランナーの伝記映画ではなく、人種問題が大きな柱となっているからです。

 時は第二次世界大戦前の1936年。ナチスドイツが国威発揚を図るために開催したベルリンオリンピックでの話です。
 ナチスの人種主義に反抗するため、ボイコット問題に揺れるアメリカ代表として出場し、4個の金メダルを獲得した伝説の陸上選手ジェシー・オーエンス。彼は黒人で、幼い頃から、そして金メダルを獲ってなお、日常的に人種差別を受け続けた。

 人種問題は今でも米国内に根深く残る問題ですよね。先日も白人警官の黒人射殺事件に抗議するデモで、逆に黒人が白人警官を襲撃する事件がありました。まったくもって今日的な問題なわけです。
 そのくせ、「ナチスドイツに抗う正義の国アメリカ」はハリウッド映画の大定番。反論の余地のない「絶対悪」として、手を変え品を変えて反ナチス映画が作られるのは、一種の「ガス抜きか?」と思えるほど。ドイツ国民は、いったい、いつまで悪役を引き受けなきゃいけないんだと、忸怩たる思いでしょうね。
 それにしても、最近見た映画でのヒトラー役は、すべてソフトフォーカス。どんな役者がやっているのか特定するのがはばかれるのか、というくらい気配だけで描かれているので、よほどのタブーなのかと思ってしまいます。

 ま、それはさておき、国家ぐるみのドーピング疑惑でロシアの出場を巡りスッタモンダするなど、リオ五輪に合わせて見るにはタイムリーな映画です。国家同士の軋轢とは別に、アメリカ人選手のオーエンスとドイツ人選手のルッツ・ロングが、真のスポーツマンシップにのっとって戦い、友情を深めるというイイ話もありますし。
 そういえば、開会式の目玉ともいえる聖火リレーが始まったのは、このベルリン大会から。ギリシャのオリンピアからベルリンまで、プロパガンダのためにナチスが伴走した演出が、負の遺産どころか、成功の遺産として連綿と続けられているんですから、皮肉なものです。
 世界的に保守化が進み、どの国も自分のとこの国益しか考える余裕がなくなった今、この映画を見て、オリンピックの意義について考えるのもいいかもしれません。

画像提供元:(C)Focus Features

■『栄光のランナー/1936ベルリン』
監督/スティーヴン・ホプキンス 出演/ステファン・ジェイムス、ジェイソン・サダイキス、ジェレミー・アイアンズ、カリス・ファン・ハウテン、ウィリアム・ハート 配給 東北新社 STAR CHANNEL MOVIES 8月11日(木・祝)、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー。
■貧しい家庭に生まれながら、陸上選手として抜きん出ていたジェシー・オーエンスは、オハイオ州立大学でコーチのラリー・スナイダーと出会い、トレーニングに励んでいた。しかし、当時のアメリカ国内では、ナチスに反対してオリンピックのボイコットを訴える世論が高まり、さらに、黒人であるオーエンスにとって、ナチスによる人種差別政策は、当然容認できるものではなかった。

やくみつる:漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。『情報ライブ ミヤネ屋」(日本テレビ系)、『みんなのニュース』(フジテレビ系)レギュラー出演中。

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