和地つかさ 2018年9月27日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 ★第283回 国際リニアコライダーと日本の未来(1)

掲載日時 2018年08月21日 22時30分 [社会] / 掲載号 2018年8月23・30日合併号

改めて、ILC(国際リニアコライダー)とは、地下に設置した直線型の超電導トンネルの中で電子と陽電子を高速で衝突させ、宇宙の仕組みを探るというプロジェクトになる。

 人類の物理学は現在、ヒッグス粒子の「謎」という大きな壁に突き当たっている。ヒッグス粒子の正体をつかむためには、電子と陽電子を衝突させるILCが最適というのが世界の物理学者の共通見解だ。現在、岩手県から宮城県にわたる北上山地が、ILC建設の最有力候補となっている。物理学者たちの国際組織は、当初のILCの長さを31㎞から20㎞に短縮。建設費についても当初の8300億円から5000億円に抑制する計画案を発表した。

 ILCの良いところは、後に「拡張」ができるという点である。当初は20㎞で建設し、必要が生じれば31㎞に、あるいは50㎞へと超電導のトンネルを伸ばしていけば済む。

 ILCの誘致は、'18年末までに決定しなければならない。理由は、年末までに欧州の物理学者たちが今後5年の活動計画を更新するためだ。日本政府が'18年末までにILC誘致を決めなければ、活動計画にILCが入らず、欧州の物理学者たちは「中国」が建設を表明している半径50㎞の回転型加速器の方に行ってしまう。すると、人類の物理学は日本ではなく中国にけん引されることになる。まさに、日本国の運命が決まる「決定的な瞬間」が迫っているのだ。

 '18年7月26日、日本学術会議はILCを日本に建設することの是非を審議する検討委員会の設置を決定した。学術会議で議論され、文科省に報告が上がり、日本政府(安倍内閣)が最終的な判断を下すことになる。もっとも、メディアがほとんど報道しないため、日本国民の多くはILCについての知識がほとんどない。そうなると、ILCの重要性を理解しないまま、
「こんなプロジェクトに5000億円(実際に日本が負担する額は3000億円なのだが)ものカネを使うのか!」
 といった、ILC反対の緊縮的プロパガンダが展開され、政治が動かず、日本国の「凋落」が決定的になるだろう。
 実際、7月28日に日本経済新聞が、予想通りILCについてネガティブな記事を掲載した('18年7月28日「『ビッグバン』再現の新型加速器、日本誘致に壁」)。

 日経に言わせると、ILC建設には「二つの壁」があるそうだ。

 壁の一つ目は、もちろん“財政が”である。日経は、記事において、
「問題は予算だ。仮に学術会議が誘致にゴーサインを出した場合も、日本の既存の科学技術予算の枠内では建設費などの負担金を捻出できない問題がある。他の科学技術プロジェクトにしわ寄せが行くのは確実だ」と、書いているのである。まさに、プライマリーバランス発想だ。

 なぜ、既存の科学技術予算を拡大する、あるいは、ILCと他の科学技術プロジェクトを同時並行的に進めるという発想にならないのか。財務省の手下である日経には、科学技術振興が理由であろうとも「予算拡大」という記事は書けないのだろう。

 とはいえ、安倍政権が6月に閣議決定した骨太の方針2018に、
「中長期の視点に立ち、将来の成長の基盤となり豊かな国民生活を実現する波及効果の大きな投資プロジェクトを計画的に実施する」と、書かれているのだ。

 ILC以上に、右記の条件を満たすプロジェクトは、他に思い当たらない。ILC建設は、骨太の方針2018に「沿っている」のである。

 ちなみに、岩手県ILC推進協議会の試算によると、ILCは施設の建設から20年間で総額5兆7190億円の経済波及効果が見込めるとのことである。

 ところが、日経は経済効果については一切、書いていない。単なる「金食い虫」という印象を与えたいのだろう。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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