過去を消した女たち 第17回 侑子(40) 経済的な苦境に立つ元AV女優の"その後”

エンタメ・2020/07/13 22:30 / 掲載号 2020年7月9日号

「中学時代に両親が離婚してからは、かなり貧乏でしたね。冷蔵庫はいつも空っぽで、常にお腹が空いてて、たまらなかったです」

 都内のとある駅で待ち合わせをした侑子は、薄手のシャツにジーパンというラフな格好をしていた。しかし、彼女は40歳には見えない若々しさを保っていた。

 近くにあるファミレスに入り、経済的に苦しかったという少女時代の日々から話してくれたのだった。

「中学生の頃ですが、友達とお祭りに行って、金魚すくいをしたんです。その日は、前日から何も食べてなくて、私には金魚が食べ物にしか見えませんでした。友達が金魚をすくうと、それをもらって、すぐにライターであぶったんです。友達は呆然としていましたけど、気にしていられませんでした。少し焦げた金魚を口に入れたんですが、とても生臭くて、吐き出したこともありました(笑)」

 これまで幼少期の貧しい記憶を多くの取材対象者から聞いたが、金魚を食おうとしたという話には正直、驚いた。そんな貧乏生活を強いられた侑子の一家だが、それ以前は何不自由ない生活を送っていたという。

「父は商売をやっていて、欲しい物は何でも買ってくれましたね。姉なんか、テレビゲームのソフトを新作が出るたびに買ってもらってました。物を買う際、母は値札を見て買ったことがなかったほどでした。一方で、箸の持ち方だとか、常に正座だとか、しつけには厳しい、厳格な家でした」

 何不自由ない生活に暗雲が立ち込めはじめたのは、父親の浮気がきっかけだった。愛人がいて、その間に子どもまでいたという。

「中学生の時に、夜逃げ同然で家を出て、アパート暮らしが始まりました。それから、貧乏生活になったんです。母は、離婚しても右から左に後先考えず全部お金を使っちゃう人だったんで、パートに出てもパチンンコとかにつぎ込み、家にお金を入れないんです」

 母親が頼りにならない以上、自分で稼ぐしかなかった。14歳の侑子は、友達の母親が経営するスナックで働き出した。

「時給は1000円でしたが、中学生にとっては大きい金額でした。その後も水商売を続けて、高校、専門学校の学費まで自分で払ったんです」

 18歳の頃からはキャバクラで働くようになり、その店の厨房では母親が調理のアルバイトをしていた。

「母は、たまに厨房から店内をのぞいていたんですけど、私がお客さんに体を触られて、嫌な顔をしていたのを見られたんです。店が終わって、『女は触られてなんぼ。触られなくなったらおしまいよ』と言われました。普通の母親なら、そんなこと言わないですよね? とにかく、ぶっ飛んだ人なんです」

 キャバクラの次に侑子が飛び込んだのは、風俗とAVの世界だった。

「18歳の時から働いたキャバクラが、数年後に潰れたんです。それで、どこか探さなきゃと思ったときに目についたのが、ソープランドでした。でも、お客さんを迎える時に正座したりとか、堅苦しいところが私には向いてないと感じ、半年ほどで辞めました。もっとエッチを楽しめばいいじゃんと思ったんです」

 その後、侑子はデリヘルなどを経てAVに出演した。

「AVの仕事はすごい興味があったんです。根っからのMなので、緊縛とかやられてみたかったんです。4年ほどで250本くらいに出演しましたけど、嫌な経験はなくて、楽しかったです。ギャラは一本、10万円ほどでした。山奥の廃墟や新宿の路上で撮影したこともありました」

 中学生から水商売、風俗、AV出演と、性に関わる業界で生きてきた侑子。そこから離れるきっかけは、彼女の妊娠だった。

「体だけの関係が続いていた元カレがいて、妊娠したんです。それで引退しました。元カレには妊娠したことは告げず、自分で産んで育てることにしたんです」

 シングルマザーとして生きて行くと決心し、AV女優を引退した侑子。現在は週に2、3日ほど介護の仕事をしながら、保育園に通っている5歳の娘と暮らしている。シングルマザーとして生きることに不安はないのだろうか?
「旦那がいない方が気が楽ですね。娘のことだけ考えていればいいですから」

 保育園での人間関係において、当然ながら、過去のことは隠している。

「保育園や幼稚園って、嫌なママがいるイメージだったんですけど、娘が通う保育園では他人の生活を気にする人は、今のところいないですね。自分のことで精一杯な感じです」

 介護の現場においても、過去のことを詮索されることはないという。

「うちの職場は刑務所帰りの人もいたりするようで、誰も過去のことを聞いたりしません。ただ、お爺さんをお風呂に入れている時、『あんた、AV女優みたいだね』と言われて、どきっとしたことがありました」

 娘と向き合う日々の中、漠然とした不安はくすぶり続けている。

「これから娘が学校に入ったりすると、塾に行ったりするじゃないですか。将来の学費とかが心配ですね。その時には、また風俗をやるかもしれません。だけどあんまり考えすぎても仕方ないので、深く考えないようにしています」
 そう語る侑子の表情は、経済的に厳しい状況で生きていることを物語っていた。

 性に関わる業界で生きてきた過去は、簡単に断ち切れるものではない。いつでも引き戻されてしまうという悲哀を感じずにはいられなかった。

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