菜乃花 2018年10月04日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第281回 日本の治水事業費の真実

掲載日時 2018年08月03日 15時00分 [政治] / 掲載号 2018年8月9日号

 個人的に驚いたのだが、今回の西日本豪雨災害を受け、いまだに、
 「治水対策を減らしたのは民主党で、安倍政権は悪くない」
 といった論調を見かけるので、真実を書き記しておこう。

 確かに民主党政権期に治水対策費が大幅に削減されたのは事実である。とはいえ、それ以上に重要なのは、
 ●そもそも、治水対策費を大幅に減らしたのは、橋本政権、小泉政権という自民党政権。
 ●安倍政権にしても、民主党政権期に減らされた治水対策費を全く増やしていない。
 という「事実」である。

 村山政権までは2.2兆円規模だった治水事業費を、橋本政権が削減を始めた。
 その後、主に小泉政権下で治水対策費は大幅に削減され、2009年(麻生政権)には1.3兆円にまで縮小してしまう。何と年間1兆円近くも治水予算を削ったのだ。それを、さらに民主党政権が8000億円台に減らした。第二次安倍政権発足後にしても、別に治水対策費が大幅に増えたわけではない。相変わらず、8000億円前後をうろうろとしている。

 さて、治水対策を疎かにし、今回の西日本豪雨災害をはじめとする豪雨災害から国民を守らず、「不作為の殺人者」となったのは'09年までの自民党政権だろうか? 政権交代後の民主党政権か? それとも、2013年以降の安倍政権か?
 どう考えても、全員である。そして、これらの政権を発足させ、公共事業を意味もなく否定し続けた日本の有権者にも、相当な責任があると自覚するべきだ。
 「今回の災害は、民主党政権が治水予算を減らしたためで、安倍政権の責任ではない」
 などと主張する人は、一度でも「データ」を確認しようとしたのだろうか。していないはずだ。

 もちろん、安倍政権が治水予算を劇的に増やしていた(せめて民主党政権成立前の水準にまで)というのであれば、話は別だ。民主党が減らした予算を政権交代前に戻したにも関わらず、今回の豪雨災害が起きたというならば、安倍政権の責任は相当に減じるだろう。とはいえ、決してそうではない。
 今回の西日本豪雨災害について、安倍政権に責任がないという虚偽を拡散し、人々をミスリードしている論者は、今後のわが国の治水対策を妨害しているも同然なのだ。何しろ安倍政権がまともに公共事業をやっているかのごとく印象操作を行い、財務省の緊縮財政をサポートしているわけである。

 それにしても、「コンクリートから人へ」と、イデオロギー的に公共事業を減らしていた民主党政権はともかく、なぜ「デフレ脱却」を掲げた安倍政権までもが、公共事業、特に「治水事業費」を増やそうとしなかったのだろうか。
 特に異様なのは、'15年の鬼怒川決壊という大災害を経てなお、治水事業費がろくに増えていない点だ。
 もちろん、'13年6月に「プライマリーバランス黒字化(基礎的財政収支、以下PB)」などという狂った目標が入った骨太の方針を、安倍政権が閣議決定したためである。

 PB黒字化のテーゼに従うと、高齢化で社会保障支出が増大していかざるを得ない(別に構わないのだが)わが国においては、
 「社会保障が増える分、それ以外の予算は削れ」
 という話になってしまう。あるいは「増税しろ」である。結局のところ安倍政権とは、
 「国民の生命や財産を守ることよりも、PB黒字化目標を達成することが重要」
 という考え方で、政権を運用してきたのである。

 結果が、今回の大災害。例えば、岡山県倉敷市真備町を流れる小田川の今回の決壊個所は、防災関係者の間で「決壊の可能性が高い」と認識されていた地点だった。それにも関わらず、政府が予算をつけず、堤防強化は行われてこなかった(計画はあったのだが)。
 無論、同種の問題を抱えた地域は、全国のいたるところにある。データを見ると、80年代から現代にかけ、雨の量が明らかに増えている。現在の日本の「国民を守る防災インフラ」は、かつての雨の量を前提に建設されたものだ。しかも、建設から半世紀以上がすぎ、老朽化という問題も発生している。それにも関わらず、公共事業を否定するのだろうか。

 西日本豪雨大災害を受け、さらに来年は参議院選挙を控えていることもあり、自民党内で「国土強靭化」を求める声が高まっている。ちなみに過去5年間、安倍政権が国土強靭化関連で何をしていたのかといえば、ほとんど何もしていないのも同然だった。何しろ「予算」が付いたためしがない。
 というわけで、自民党の重鎮たちが、ようやく国土強靭化を言い出した。
 「毎年、大きな災害がどこで起きるか分からない状況だ。ハードとソフトを合わせ、どう備えるか考える時期を迎えている」(竹下亘総務会長)
 「財政的な問題も無視できないが、今は万全の対策を取っていくことが優先されるべきだ」(二階俊博幹事長)
 「大規模ダムが必要だと大雨で確認された」(細田博之元幹事長)
 安倍晋三総理大臣も、
 「自治体が予算を気にしないようにどんどん使えるようにしろ」
 と、指示したとのことである。

 そもそも、世界屈指の自然災害大国であるわが国が、治水事業を始めとする公共事業をひたすら削ってきた時点で「狂気」なのである。政府が本気で国民を自然災害から守るというのであれば、少なくとも与党の政治家は正々堂々と「公共事業の拡大」を訴えなければならない。
 日本国に“財政問題”とやらは存在しない。存在するのは、ありもしない財政問題に騙され、政治家や国民が「公共事業を削らなければならない」と、現実やデータを無視して思い込んでいる、この「空気」なのである。
 政府は堂々と「公共事業拡大路線」に転じよ。

みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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