中島史恵 2018年8月23・30日合併号

大特集 第100回全国高校野球大会 甲子園に棲む魔物(2)

掲載日時 2018年08月11日 12時30分 [スポーツ] / 掲載号 2018年8月16日号

 球児の運命を変えたこともある。95回大会('13年)、常総学院(茨城)対前橋育英(群馬)の準々決勝で、「この投手はホンモノ!」とプロ野球スカウトの評価を一変させたのは、現西武の高橋光成だ。前橋育英の背番号1を背負った右腕は大会前、さほど評価されていなかった。
 「好投手ではあるが、コントロールに難アリ」
 こうした評価を、高橋は敗戦で自覚させられてきた。徹底的な走り込みと、投球フォームの見直し。その努力がチームからの信頼へと繋がり、スカウトたちの評価も変えていた。9回裏、相手二塁手の正面に打球が転がった。3万6000人の観衆の誰もが「終わった」と思ったが、まさかのファンブル。そこから打線が繋がり、高橋の同点打が生まれた。魔物はエースの投球を「もう少し見ていたい」とでも思ったのだろうか。

 ファンブルという些細なミスが勝敗を分けることもあれば、「球場の雰囲気」が選手を金縛りにさせてしまうときもある。98回大会('16年)の八戸学院光星(青森)対東邦(愛知)の一戦がそれだ。9回裏、4点差を追う東邦が先頭バッターのヒットで出ると、スタンドの雰囲気が一変した。
 ファンは劣勢のチームに優しい。少しでも付け入る隙が生まれれば、ドラマを期待する。一死後、3番打者が続いた。4番を打ち取り、二死となったとき、八戸学院光星のエース・桜井一樹はここから4安打を浴び、逆転負けのミラクルゲームとなってしまった。

 応援席のブラスバンド、振り回すタオル(現・禁止)、声援…。桜井の表情は、勝っている側のエースのそれではなかった。
 「独特の雰囲気があったが、負けるべくして負けたんです。相手は全力疾走を怠らなかったし。ウチは死球で相手投手を睨み返したりと、負ける要素があったんです」
 後年、八戸学院光星を指揮していた仲井宗基監督はそう振り返っている。魔物は試合を見ているのだ。

 守備の名手を迷わせた試合もあった。
 96回大会('14年)、市立和歌山対鹿屋中央(鹿児島)の一戦は、1対1のまま、延長12回裏に突入した。一死一、三塁。守る市和歌山ナインの元に伝令が走る。
 内野手が各々の守備位置に散った直後だった。二塁手・山根翔希の前にゴロが転がった。中間守備、県大会無失策の名手はその打球のスピードを見るなり迷ってしまった。
 「思ったよりも勢いがなくて…」
 山根は一塁に送球し、三塁走者の生還を許す。

 「強い打球が来たら、二塁ベースを使っての併殺、それ以外なら、バックホーム」
 伝令の言葉は頭に入っていた。しかし、山根の前に転がった打球はそのどちらとも言えない微妙な勢いで、併殺とバックホームの両方に備えていた中間守備だったため、意味のない一塁送球をするしかなかったのだ。
 大会本部は試合後に集まり、彼の処理した「一塁送球、アウト」の記録を訂正させた。「本塁生還が成立しており、意味のない二死」という解釈で、内野安打に変更させた。しかし、山根は「自分のミス」と言って号泣したままだった。

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