森咲智美 2018年11月22日号

世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第169回 ラスト・チャンス

掲載日時 2016年04月08日 10時00分 [政治] / 掲載号 2016年4月14日号

 3月16日、ノーベル経済学賞の受賞者であるアメリカの経済学者ジョセフ・E・スティグリッツ教授が来日し、国際金融経済分析会合に出席した。国際金融経済分析会合は、5月のサミットに向け、政府が有識者と世界経済情勢について意見交換をするという主旨になっている。
 来日したスティグリッツ教授は安倍総理と会談し、消費税増税の見送りと「財政の拡大」を進言した。スティグリッツ教授は、
 「日本は金融政策などを行っているが、財政政策がこれから必要だ」
 と、財政拡大こそが現在の日本に必須であると語り、同時に、
 「現在のタイミングでは消費税を引き上げる時期ではない」
 と、来年4月に予定されている消費税増税を見送るべきと提言。

 スティグリッツ教授の提言は、金融政策、財政政策はもちろんのこと、構造改革や法人税減税、TPPなど多岐にわたっている。要約すると、
◇金融政策は限界
◇緊縮財政は間違い
◇インフラや技術への財政拡大が正解
◇デフレ期の構造改革は間違い
◇法人税の無条件減税は投資拡大効果が薄い
 と、アベノミクス、厳密には「金融政策+緊縮財政+構造改革」に変貌を遂げてしまった、狂ったアベノミクス全否定であった。さらに、TPPについては、
 「米国での効果はほとんどなく、米国議会で批准されない」
 との見方を示した。特にTPPの投資分野について、筆者同様に、
 「新しい差別をもたらし、より強い成長や環境保護などのための経済規制手段を制限する」
 と、懸念を示した。

 スティグリッツ教授の提言の通り、現在の日本にとって正しい政策は、
○消費税増税は凍結・延期(もしくは消費税減税)
○需要創出のための財政出動
○特に必要な財政出動はインフラへの投資
 である。まさしく、現実の安倍政権の経済政策の「真逆」が正しいと、スティグリッツ教授は明言したわけだ(スティグリッツ教授の提言は、筆者が本連載で訴え続けてきた政策とほぼ同じである)。

 さらに、3月22日には、同じくノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン教授も来日。分析会合において、やはり消費税増税について先送りするべきと安倍政権に提言した。
 また、クルーグマン教授はサミットで先進国が強調して財政拡大するべきとも主張。何となく、リーマンショック後の情勢に似てきたように思える。

 消費税増税は「先送り」ではなく、「凍結」もしくは「減税」の必要がある。と言うよりも、すでに“今”が消費税先送りされた状況なのだ。単なる「延期」の結果がいかなるものか、すべての日本国民は理解しているはずである。
 2014年4月の消費税増税の影響を相殺し、日本経済を成長路線に導くためには、増税先送りでは不十分なのだ。増税が日本経済をマイナス成長にたたき込んでしまった以上、最低でも凍結。あるいは、消費税減税、つまりは5%に税率を戻す必要がある。
 産経新聞とFNNの合同世論調査によると、消費税について、「遅らせるべきだ」と「引き上げるべきでない」が7割を超えるという結果が出ている。消費税増税の悪影響は、一般国民こそが肌身に感じているのだろう。

 ところで、現在、自民党の国会議員たちは消費税の再増税阻止と、緊急経済対策に動き始めているが、例の「プライマリーバランス黒字化目標」が壁になってしまっている。
 そもそも、財政指標の一つにすぎないプライマリーバランスを目標にする時点で、奇妙な話なのだ。なぜならば、財政健全化はプライマリーバランスではなく「政府の負債対GDP比率」で判断されるべきであるためだ。
 政府の負債対GDP比率の動向は、名目GDP成長率、国債金利、プライマリーバランスという三つの指標の組み合わせで決定される。三つの指標の中で、ことさらにプライマリーバランスのみを取り出し、収支を目標にしてしまうなど、ナンセンス極まりない。とはいえ、政府の財政出動を阻止する上では、実に合理的な目標設定ではある。

 今回、クルーグマン教授は、
 「2、3年は、財政収支は気にしないでよい」
 と、日本の財政について発言した。ナンセンスな短期のプライマリーバランス目標を破棄する「良い言い訳」になるのではないか。外国人に言われなければ正論が通らないというのは情けない話だが、やらないよりははるかにマシである。
 消費税増税が延期、凍結、減税と、いかなる結果になろうとも、日本国民が、「なぜ、こんな事態になったのか?」を知ることが極めて重要だと考えている。デフレ期の緊縮財政は、国民を貧困化させるという当たり前のことを国民が理解し、政治家を動かさない限り、わが国は永遠に財務省の財政均衡主義の呪縛から逃れられず、亡国に至ることになる。

 そもそも、日本銀行が国債を買い取り、政府の実質的な負債が消滅していっており、さらに銀行から国債が枯渇し、長期金利までがマイナスに落ちているわが国で、「国の借金で破綻する!」「日本銀行が通貨を発行し、国債を買い取るとハイパーインフレーション!」といった言説がまかり通っている時点で、異様な状況なのだ。
 政府の負債が100%自国通貨建ての日本政府が、財政破綻する可能性はゼロである。しかも、すでにして国債の3割強は日本銀行が保有している。日銀保有分の国債について、政府は返済や利払いをする必要はない。何しろ日本銀行は日本政府の子会社であるため、親子間のおカネの貸し借りや利払いは連結決算で相殺されてしまう。
 安倍政権は存在しない財政問題を理由に緊縮財政路線を推進するのは、いいかげんにやめてほしい。新規発行10年物国債までもがマイナス金利なのだ。安倍政権は消費税増税に代表される緊縮財政路線から、普通に建設国債を発行し、リニア新幹線や新幹線網、高速道路網など生産性向上のための公共投資を拡大する政策にかじを転じるべきだ。

 2人のノーベル賞経済学者が、財政政策を拡大するべきと提言しているのである。今回のスティグリッツ、クルーグマン両教授の来日は、安倍政権がまっとうな経済政策に転換する“ラスト・チャンス”だ。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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