林ゆめ 2018年12月6日号

本好きリビドー(170)

掲載日時 2017年09月16日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年9月21日号

◎快楽の1冊
『日常学事始』 荻原魚雷 本の雑誌社 1300円(本体価格)

 始めから難癖を付けるつもりではないが、本書オビの煽りコピーには異論がある。“怠け者のための快適生活コラム集”。「?」とんでもない。一読する限り、著者は極めて勤勉かつ研究熱心な努力家だ。貧乏臭くなく節約し、極力無理をせずに無駄を省いた生活を機嫌よく送る上での。
 なにしろ独身の筆者だが、ひきわり納豆と豆腐をペースト状になるまでかき混ぜるとかさも増してお得な上にクラッカーにのせても旨い…といわれても、ひきわり自体のあの細かい粒を容器からこそぎ落とす作業がそもそも面倒臭い派。何でもこまめにラップして冷凍などとてもできないし、「まずはお茶から」と題された冒頭のコラムの通り“毎日きちんとお茶を入れる”ことすら覚束ないのだから打つ手がない。せいぜいたまに作るカレーを腐らせぬくらいが関の山か。
 一点気になったのは「正しい食べ方・飲み方」の章で、「かつて山口瞳が三島由紀夫が寿司屋でマグロばかり注文していたことに文句をいった」とあるが、これは少し違うのではないか。記憶でしかないが山口氏が書いていたのは確かこうだ。…寿司屋はもちろんさまざまな魚を仕入れるが、中でも命のタネはやはり鮪。だがなるべく多くの客に食べさせたいと思っても量には限度がある。それを客の方でも心得て白身や貝類、光物に目を移す。たまたまトロばかり頼む三島氏を前に、主人がやや困惑気味の表情を浮かべたのを見た氏が、この人(三島)はこういう世間の機微がひょっとして分からないのかも、と絶妙な筆加減で描写していたのであって、何も食通ぶって作法を説くような口ぶりではなかったはずでは? とつい野暮な目くじらを。結論、「楽に生きるのも、楽じゃない」((C)春風亭昇太)。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 女性が「痴漢よ!」と叫んだ途端、ホームに飛び降り線路を逃走する男の後ろ姿…。ニュースでも取り上げられ、話題となった。中には痴漢と間違われる冤罪もあるかもしれないが、重大な犯罪であるのは明らかである。
 では痴漢とは、一体どういう男なのか? 性犯罪の専門家が加害者である男の実態を解明した興味深い本が、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス/1400円+税)である。
 著者の斉藤章佳氏は、アルコール・ギャンブル・薬物・摂食障害などの依存症を治療する施設勤務のソーシャル・ワーカーだ。痴漢などの性犯罪も依存症の一種であり、治療によって更生することが可能という思いから執筆したという。
 まず、痴漢に対する世間の認識は誤っているという。例えば、「痴漢とは女性に相手にされない男」は誤り。実際には大卒の高学歴、ごく普通に社会生活を営むサラリーマン、結婚し妻子がいる者もいる。
 さらに「多くの痴漢は勃起していない」。それならなぜ痴漢行為に及ぶのかというと、「やめたくてもやめられない」からだ。
 したがって、逮捕されても再犯率は高い。まさに薬物依存症と同じなのである。
 日本は世界でも稀な「痴漢大国」なのだそう。読み進めるうちにわが国の“暗部”が伝わり、じわじわと気が重くなってくる1冊である。
 しかし、社会が正面から向き合わないと解決できない問題であることも、十分に理解できるだろう。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

関連タグ:本好きリビドー


エンタメ新着記事

» もっと見る

本好きリビドー(170)

Close

WJガールオーディション

▲ PAGE TOP