葉加瀬マイ 2018年11月29日号

プロレス解体新書 ROUND16 〈“BI砲”奇跡の復活〉 プロレス夢のオールスター戦

掲載日時 2016年09月05日 16時00分 [スポーツ] / 掲載号 2016年9月8日号

 プロレス界最大のライバル関係にあったジャイアント馬場とアントニオ猪木が、長年の確執を乗り越えて同じリングに立つ。1979年8月26日に開催されたプロレス夢のオールスター戦。その歴史的な一戦はファンを熱狂の渦に巻き込んだ。

 例えば時代劇で、いくら殺陣のうまい役者が出演したところで、それで作品がヒットするわけではなく、やはり主演俳優の知名度やストーリーの面白さが重要となる。プロレスにおいても同様であろう。
 ただ単に強い、技術が高いというだけでは、オリンピックのような競技としては成立しても、長期にわたってファンを熱狂させるドラマとは成り得ない。その点でいえば昭和の時代、全日本プロレスと新日本プロレス両団体によるライバル物語は、まさに“超ヒット作”であった。

 日本プロレス時代に端を発した馬場と猪木の確執…エリート街道を歩む馬場に対する猪木の嫉妬心から始まったとされる遺恨は、両者が独立してからも継続し、ファン感情を大いに煽り立てることとなった。
 「猪木による馬場への挑発ばかりが目立ったが、馬場も決してそれに甘んじていたわけではない。むしろ、裏では馬場のほうがガチンコだった」(全日関係者)

 馬場が海外人脈をフル活用して、新日の外国人招聘ルートを遮断したのは知られたところだが、さらに直接的な“猪木潰し”も画策されていた。
 「'75年に全日の開催したオープン選手権がその舞台になるハズでした。力道山の十三回忌追善を名目に、猪木にも参加を要請。先に新日の興行日程が組まれていたため実現はしなかったが、もし猪木が“馬場との対戦”に釣られて強行出場していたならば、その後の猪木の活躍はなかったかもしれない」(同)

 総当たり戦ではなく実行委員会によるマッチメークで相手が決まるという、リーグ戦としてはやや特殊な形態で行われたこの大会、大相撲の取組と同じといえばそうなのだが、これには裏の意図が隠されていた。
 「もし猪木が参加となったときには、ホースト・ホフマンやパット・オコーナー、ディック・マードックらの“セメント(真剣勝負)で強い”選手を次々と当てて、馬場との対戦の前に壊してしまうつもりだった」(同)
 馬場としても、悪意に満ちた誹謗中傷や無法な対戦要求を仕掛ける猪木に、業を煮やしてのこと。互いにプライドと生き残りを懸け、引くに引けない状況にまでなっていたのである。

 そんな暗闘が続く中で行われたのが、'79年8月26日の『プロレス夢のオールスター戦』であった。
 本気でいがみ合ってきた馬場と猪木が同じリングに上がるという“事件”は、まさに全日vs新日の大河ドラマにおけるクライマックスとなった。
 「東京スポーツの創刊20周年記念として企画されたこの大会は、東スポにしかできないものでした」(スポーツ紙記者)

 朝刊各紙がプロレス報道を減らし、また専門誌も月ごとの発行だった当時、大々的にこれを取り扱う東スポは、団体にとって現在進行中のストーリーをファンに知らせる“営業ツール”であり、興行の成否を決める最も重要な媒体だった。
 「そんな東スポでも実現できなかったのが、ファンの一番の望みである馬場と猪木の直接対決でした。そもそも馬場は当初、猪木と同時にリングに上がることすら拒絶していたそうで、それでもなんとかBI砲(馬場と猪木のタッグチーム)復活にこぎつけたのは、東スポ主催だったからこそでしょう」(同)

 対戦相手は、ファン投票で選ばれたアブドーラ・ザ・ブッチャー&タイガー・ジェット・シン。両団体のトップヒール(悪役)コンビに決まる。
 「実際の投票1位はテリー&ドリーのザ・ファンクスだったともいわれ、これは日プロ時代のBI砲ラストマッチで敗戦を喫した相手へのリベンジの意味もあったが、全日側の拒否によって流れたようです。BI砲とファンクスのベビーフェイス対決では、誰に勝敗をつけるかの問題があったのでしょう」(同)

 馬場と猪木の決着戦というファンの第一希望からは大きく後退したが、それでも試合当日、会場の日本武道館は観衆1万7000人の超満員。さらに入り切れなかった多くのファンが「せめて場内から漏れてくる音だけでも聞きたい」と、会場を取り囲んだ。
 また、馬場と猪木も、それぞれ望んだ形の試合でなかったにもかかわらず、観衆の注目に応えるべく近年にない良好なコンディションで試合に臨んだのは、さすが一流の証しであろう。馬場の十六文は相手の頭を越えるほどに高く上がり、猪木もブッチャーの巨体をブレーンバスターで投げ飛ばしてみせた。
 最大の見せ場であるBI連携のアームブリーカーも無難にこなし、両雄は存分に持ち味を発揮。猪木がシンを逆さ押さえ込みで下したフィニッシュは、やや唐突な印象もあったが、それでもファンの歓声が止むことはなかった。
 ただし、これは試合内容への賛辞だけではなく、「この先に馬場vs猪木がある」との期待もあってのこと。しかし、2人のドラマはついに未完のまま終わってしまったのだった。

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