森咲智美 2018年11月22日号

本好きリビドー(180)

掲載日時 2017年11月25日 18時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年11月30日号

本好きリビドー(180)

◎快楽の1冊
『誰も知らない憲法9条』 潮匡人 新潮新書 780円+税

 舞台では旧帝国陸軍の軍帽を被り、“大本営八俵”の名で戦後生まれの傷痍軍人を装う筆者は筋金入りのジャイアンツファン。その理由は簡単というか当然で、12球団の中で唯一、巨人のみが軍隊の「軍」の字がつくから。確か正式名称は東京読売巨人軍でしょ?
 だから彼らはプロ野球選手でもなければアスリートでもなくれっきとした軍人だ! …とこれは日頃口にしている漫談のネタだが、こと自衛隊の話に及べば冗談では済まない。
 今年5月の安倍総理の具体的提案以来、漸く本格化しそうな動きだけはある改憲論議だが、最大の本命である9条について本書によれば幾つか誤解があるようだ。国立公文書館に眠る“原本”には「戦後の永久放棄」を定めたいわゆる1項と、「戦力不保持」と「交戦権の否認」を定めた2項という「項目立て」がそもそもなく、またテニヲハの段階で日本語表現として明らかに不自然な“前文”にしても、実は後世に便宜的にそう呼ばれてたまたま定着してしまったのだとか。
 著者はもはや狂信の域も含めた宗教的心情護憲派を手厳しく批判しつつ、占領軍による完全に一方的な押しつけの産物と断じて無効ないし廃棄を唱える改憲論者に対しても、仮にも昭和天皇がこれを認めた上諭が添えられた以上は安易に全否定できない筈と釘を刺す。
 改めて自衛隊の存在さえ明記されればそれで事が済むのではない。一朝、危急存亡の時に国家国民のため身を捨てねばならぬ可能性を常に帯びた彼らの身分、地位、名誉を、国際的かつ常識の標準に照らし合わせていかに担保、保証するのか。そのために最も肝要なのは天皇と自衛隊の関係性だと説く著者。自衛官出身ならではの切実な訴えが胸を打つ。個人と歴史が交錯するあとがきにも注目。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 週刊実話読者で「吉原」を知らない人はいないだろう。全国的にその名を響かせる日本一のソープ街だ。『吉原で生きる』(彩図社/1500円+税)は、行政による新規出店の規制や若年層の風俗離れなどが原因で、これまでにないほど危機的状況に陥っている吉原の“今”を伝える1冊だ。それも高級店の元ソープ嬢、店長・従業員、風俗街を取材することで生計を立てているカメラマン、吉原へ来る客を送迎するベテランタクシー運転手など、まさに「吉原で生きている人々」への取材を通じ、時代の流れに取り残されつつあるこの風変わりな街の現在の姿を伝えている。
 どの取材対象者も、おしなべて高齢だ。少なくとも若者はいない。そのことが吉原の現況を物語っている。近隣の上野、浅草、東京スカイツリーといった観光地が2020年東京五輪に向けた再開発で賑わう中、“絶滅危惧種”といった様子でひっそりと生きている、そんな姿が浮かんでくるのである。
 筆者も吉原のソープ嬢を取材する機会は多かったが、年々、オファーは減っている。理由のひとつはソープで遊ぶ客の高齢化だ。以前のように企業が接待で利用することもなく、かといって若い人は経済的余裕もない。少ない年金から工面し、月1度だけ“癒し”を求めにやって来るシニア層が多いと聞いた。
 男を惹きつけてやまなかった不思議な街が、時代の変化にのまれていく様は、どこか郷愁を誘う。著者は風俗ライターの吉岡優一郎氏。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

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