葉加瀬マイ 2018年11月29日号

本好きリビドー(181)

掲載日時 2017年12月03日 17時00分 [エンタメ] / 掲載号 2017年12月7日号

本好きリビドー(181)

◎快楽の1冊
『真実の名古屋論-トンデモ名古屋論を撃つ』 呉智英 ベスト新書 680円(本体価格)

 東名阪、3人の財界人が会食した。終わって東京の財界人は「2人にどうやって気付かれぬよう会計を済ませようか」とそわそわし、大阪の財界人は「俺の食ったぶんは幾らだったか」を勘定し、名古屋の財界人は「どういう風にお礼を言おうか」を必死に考える…。
 バブルの頃に聴いたある落語家のネタだが、この程度の無害な小噺ならともかく、無知と思い込みによる得手勝手な“これが名古屋だ”的断定調の愚論が余りに猖獗極まると筆者は説く。
 中でも、その昔、内村鑑三が山陰や山陽の人、すなわち中国地方の出身者を指して中国人と記したのを、丸々支那(この表記がなぜ差別なのか。発音も併せて駄目なら東シナ海も南シナ海も、無論インドシナ半島もいけないことになる。ことによると東京23区から品川区も削らねば)大陸の方の「中国人」と勘違いしたまま「中国人と名古屋人」なる1冊を書き上げ、現在も活躍中の某“県民性評論家”への執拗かつ容赦ない批判ぶりはもはや、悪質な白アリの群れを目にした害虫駆除業者じみて思わず笑ってしまう。
 「嫁入りが派手」なのは名古屋のみに非ず、名古屋は「文化不毛の地」には決して非ず、ましてや「日本3大ブスの産地」などには断固として非ず…と、TVの『ケンミンSHOW』的なノリも手伝った数々の風評をことごとく粉砕する筆致に、しかし決して小姑のいびり風な陰湿さはかけらもない。
 むしろ最古の新興宗教(妙な形容だが)のはずの天理教より先行する如来教が名古屋発である件りや、徳川時代の名古屋が生んだ言語学者・鈴木朖を導入になぜ70年代に左翼知識人が盛んに日本語を論じたかの背景が考察されるなど、肥沃な余談の楽しみに溢れている。
(居島一平/芸人)

【昇天の1冊】
 官能小説界のレジェンド・睦月影郎氏が今年8月に刊行した作品を紹介したい。タイトルは『昭和三十年東京不倫』(二見書房/694円+税)
 ひと口でいえば昭和30年代の東京を舞台に、未亡人に誘惑された純情な青年が性の階段を登っていくというお話。主人公は戦時中、特攻隊員として訓練を受けていたが、終戦によって命を生きながらえた29歳の若者。戦後は純文学作家として生計を立てようと考えていたが芽が出ず、しかたなくエロ小説作家を志す。ところが、性体験は1度だけ…そこに現れた40歳の妖艶な未亡人に、手とり足とりセックス指南を受けるというもの。
 とにかく、未亡人との結合描写がイヤラシイ。「生温かく濡れた肉襞」「いいわ、奥まで響く…」などなど、昭和のオンナの熟れた肉体を表現する言葉がてんこ盛りで、思わず股間が熱くなってくる。
 さらに「チチラチオ」(今なら手マンというべきか…)、「ジギタチオ」(チチラチオの反対、つまり手コキ)など、当時にあっては最新の外来エロ用語も満載。古きよき時代の淫靡かつユーモア溢れる叙述は、デジタルに取って代わり、どこか無味無臭な現代のエロスとひと味違って、フシダラでいかがわしい。
 主人公は未亡人を皮切りに、主婦との不倫や3Pなど、次々と女体を味わっていく。そして、その経験を活かして執筆した作品が売れていくというサクセスストーリーでもある。
 エロスが素朴で牧歌的だった頃の味わい深い物語。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)

関連タグ:本好きリビドー


エンタメ新着記事

» もっと見る

本好きリビドー(181)

Close

WJガールオーディション

▲ PAGE TOP